「詩集の美」は、私のお気に入りの詩集の装丁について紹介していく記事です。
今回は柴田聡子さんの「さばーく」を紹介いたします。
鮮やかなブルーと白のチェック模様の表紙と茶色のカバーの組み合わせがとても良いです。
サイズもちょうどよい大きさで、手に持つとしっくりとなじむ感じがします。
発行元は「試聴室」。専業の出版社ではなく、神保町と横浜黄金町に拠点を置くライブハウスです。
そのためでしょうか。私にはこの本の装丁がCDアルバムのジャケットのように見えます。
例えば、このケース。
本のケースとしては、珍しく箱の両側に穴が開いております。普通は文字通り箱なので、穴は片面だけなのですが。
このあたりもCDのような雰囲気を出している一因でしょう。
もう一つ変わっているのは、その両開きケースに、穴をまたいで帯が巻かれていること。
これ、気を付けないと本をケースから出すときに、帯がビリッとなってしまう危険が・・・
しかし、ブックデザインとしてはとても斬新で、大胆なことに挑戦しているなあ、と言う感じです。
装丁はブックデザイナーの佐藤亜沙美さん。祖父江慎さんのコズフィッシュで修行を積んだ方らしいです。
字組みやノンブル(ページ番号)の書体を決めて、一旦本の形にしてまとめた上で、総ページ数、全体のボリューム感、紙の質など、全体のイメージを固めていく作り方をされているとか。
納得の質の高さです。
柴田聡子さんは2010年にデビューされたシンガーソングライター。この第一詩集は柴田さんの作詞した曲を中心にまとめたものです。
YouTubeに歌の映像がUpされているので、是非一度聞いてみてください。
少し不思議でキュートとしか言いようのない饒舌な言葉の世界が展開されています。
そして詩集と言う形でその言葉を読んでみると、その印象が全く変わってくるのに驚きます。
言葉のスピードが変わってくると言ったら良いのでしょうか。歌で聞くのとは違う落ち着いた表情を見せています。
しかし、不思議なリズム感はそのままで、やわらかく弾むふうせんのような感覚を受けます。
当詩集は第5回エルスール財団新人賞を受賞しました。その際の選考委員の言葉を引用させてください。
「柴田聡子はいわゆるシンガーソングライターであるが、その歌詞は飛躍や諧謔に満ち、こういってよければ、歌詞であることを超えている。では現代詩的かとい うと、もちろんそのガラパゴス化とはべつのところからやってきて、べつのところへ出ようとしている。要するに、詩として不思議にあたらしいのだ。」野村喜和夫
「その詩を声に、声を自らのギターに乗せて、柴田聡子さんは、はにかみながら世界と闘う。明るいタナトスと品のよいエロス。謎めくユーモアとチャーミングな 毒。やなんかを武器に。「歌-詩」だけじゃない。詩集『さばーく』の後半に収められた、お芝居の台本とか、あるいは「あとがき」さえも、滅茶苦茶に「詩」 だ。」カニエ・ナハ
とても的確にこの詩集の新しさを言葉にしてくれています。
当サイトでは、このさばーくの中から一篇「耳をください」を紹介しております。
是非ご覧になってください。
また「さばーく」はAmazonでも購入可能となっています。こちらです。