石をひろっては
投げる
石をひろっては
投げる
そうして
胸のなかのものを
捨てていった
杉山平一
「杉山平一詩集」所収
1978
時間の経過に身をまかせるなら
みずからときをきざんでたゆたい
空をひろげていって だから
物のつながりで今を判断するな
ぬるぬりのぶすぶさの泥ねいのみぞで
ポリプのように生きるとも
水底で星になることだってできる
つくることをすっかり忘れ
事物を分析し きらめく糸をつむいでいけば
わたしは蓮華の下で落花生となり
浮きあがり
見えない風の滝のぼり
いつまでもうずまいている
あれらの球はくびれがあって
つきでているのに
まんなかはぬれているくぼみではないか
岡田隆彦
「海の翼」所収
1970
不滅なものは信用できない
おお、ぼくの友だち、絶望が不当に傷つけたさびしい少年
つらいぼくの夢はおわったさ
ながーい不信がかがやかす
荒廃した郊外いっぱいひろがった夢
夢はいつだっておわったあとで夢みられる夢だぼくは
もうすでに出立したんだこのぼくのなか
みえっこないほど深いセンチメンタル・ジャーニー
知らなかったかい?ぼくは
終始いつだって誰れでもなかった誰れひとり
ほんとうにぼくたちの誰れであることもできなかった
それでもはじめるしきゃなかったんだよ、ぼく
狂気と永遠を区別することから
純潔と性的倒錯を熱烈に混ぜあわせることから
恐怖だけが純潔だなんて!くそっ
そいつをかんがえると口惜しくなってきて
ああ、ほとんど泣きだしちまいたくなるくらいなんだなあ
ぼくがおしまいまで巧くやってゆけないかどうか
そんなことぼくがどうして知るもんか
ちぇ、どんないろしてるんだろ?ぼくの
怒りや焦りやたまんない衝動のいろ?
ぼくの知らないぼくの青春の
皮膚のいろって、え?
ぼくは探した探した探した
探しためまいのするほどぐるぐる廻って
おおきな積木とちいさな影のあいだで
一日じゅうケンケンをしてくたびれきった
子供たちのようにくたびれるまで
探した探したこのぼくがいまここにいる
場所と名まえ
長田弘
「メランコリックな怪物」所収
1973
ふり返ってはいけない
きのうが明日だった日のことを
はるばる遠い 気の遠くなるほど
遠い明日のために
うつぎの花が咲いている
動物には おのれの姿は目にうつらない
獲物に追いつく すると獲物が
その動物になる
おまえの歩みがわたしに一歩
先立つとき
ふたりのあいだに
森と木洩れ陽がうまれ
猟場の角笛が
こだまを交しはじめる
<ふり返ってはいけない>というのに
<だれも気にしていない動物がいるだけ>というのに
駆けまわる馬の やさしいいななきが
いま おまえの腕を包んでいる
杉本秀太郎
おまえは勝手に死んだ。
おまえの仕事を
くさすこともできない。
おれは徘徊して世間のなかにとりのこされた。
今日までの長い秋。
薄っ原の武蔵野を
腹立たしく歩き疲れて
日が暮れた。
あくせく働き、生きねばならぬ。
あくせく生きる。
何故にだ。
そんなこと知るか。
おまえは反対し、おれは反論する。
くらくなった道を
村はずれの
酒を売る店にはいって1ぱい飲んだ。
気みじかに酔って、たがいに結論をせきたて
首肯せず、同意せず。
口をあけて炎のように酒臭い。
突き出すように外に出れば
薄く低く、くろい富士。
白くゆれる薄っ原がひろびろとあった。
郊外電車に乗ってあの居酒屋に行かねばならぬ。
死んでしまったおまえのように
たずねようもなくなった薄っ原。
ずしっと東京の
建込んだ家並の向う。
幾年も幾年もたってからあの富士が見えたのだ。
竣工したばかりの駅の
コンクリートの腹立たしく高いブリッジから。
秋山清
「季節の雑話」所収
1978