匿う水が、植木のしたに溜まっている
鈍器で殴りこんできた敵は火のなかで死んだ
洗われた傷を清潔なガーゼでおさえながら
病室で泣く人の傍らに座った
言葉よりもからだのほうが近く、
とじこめて、死後に語る、と約束をした
郷里の雪はタイヤの跡が茶色く、
少しも美しくはなかった
わたしたちのほうがまだ、と息をとめ、
片割れのからだが、さらに細切れの一人を零し、
睫のさきが重くなる
もう眠れ、とあなたは言った
それから、しずかな遺体をくるんだ
何かあったらすぐにおまえに
そう告げていた指先から一センチのところで
携帯も眠っていた
わたしも、植物を育てている
あの一センチの距離が、ただひとつのやさしさになるまで
この血のなかで、何度も語りつづける人よ
如雨露の蓮口を拒んで
水はいらないと、けだかく怒鳴る人よ
杉本真維子
「裾花」所収
2015
杉本真維子さんの「一センチ」は作者の許諾を得たうえで掲載しております。
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下記は杉本さんが高見順賞を受賞された時の産経の記事です。
http://www.sankei.com/life/news/150330/lif1503300008-n1.html