Category archives: 2010 ─ 2018 (Current)

羽の日

嗚呼、私はどうすれば良いのだろうか?
妻の体は白に包まれて行く
もう胸の辺りまで真っ白だ
深く息を吸うが肺は膨らめず
弱い呼吸を繰り返すしかない
私は妻の硬くなった太股を触る
微かにだが体温と拍動を感じる
体内は軟らかいままのようだ
だがそれを知った所でなんになるのだ?

私は布団の前で正座し
何日も風呂に入らず雲脂だらけの頭を掻き毟った
録に食事も寝もせずに妻の前でただこうやって
泣く事しか私にはもう思い付かないし出来やしない
そうする事で苦しむ妻と同じ立場になり
無力な私が許される
そんな気がしたのだ

私は何度も医者を呼んだ
だがしかし妻の容態を見るなり
急用を思い出したと行って帰って来ない
何時になったら戻って来るのだろうか
目の前で苦しむ妻よりも大事な用事とはなんなのだろう
ある医者を招き入れ妻に会わせると
背を向けて帰ろうとするので
私は彼の足をぎゅっと掴む
何処へ向かわれるのですか?
医者は私の腕を振り払い
知らないと言って家を出ていってしまった
それを最後に私は医者を呼ぶのを止めた
だが、どうしたら良いのか私は何も知らないままだ

最後に医者を呼んでから三度の日を跨いだ
もう起きているのか寝ているのか分からない
非常に曖昧で畳から浮いている
引き延ばされた時間の中に私は座っていた
その中で妻の絞った声が聞こえた
今までありがとうございます
その声を聞いた瞬間
私の視界に黒い幕が降りて来て
ぐるぐると意識が解けていった

目を覚ますと朝で
妻は安らかな顔で
頭の先まで真っ白になっていた
涙を既に枯らしていた私は
畳をひたすら殴った
皮膚を破り血が滲んでも
構わずに殴った
この何も出来ない私の手で妻の頬に触れる
すると硬い頬の奥に流れる物を感じた

私は急いで服を脱ぎ
妻の服を脱がせ割れないように抱いた
この温度を逃がさぬと抱いた
日なんて幾つ跨いだか分からない
ある朝に妻の白い体が内側から割れる
中から羽の生えた赤子が何体も飛び出し
私は驚いて尻餅を付く

暫く呼吸すら忘れていたが
その後直ぐに窓を開けて放してあげないといけないと思った
死んだ部屋の空気と沈んだ埃と一緒に
赤子達は空へと飛んでいった
きっと医者が言っていた知らないとは違う場所

カオティクルConverge!!貴音さん
現代詩投稿サイトBREVIEWより転載
2018

Tender

二つの道がある
言い淀んだその後に惨めな川が生まれる
流れるでも滞留するでもない

軸のないカラダになってしまった
軸のないカラダになってしまった

例えなければ、それはただの
あまりにも
ただの

ん苛々するナァ

なんやようわからん植物を
ブドウと思って口に入れたときの
人生の方がよかった

食う前からまずいと決めて馬鹿野郎が
能書き垂れよる
能書き垂れよる

ワシわなぁ
轢き殺されたいときかあるんじゃ
気に食わんからのう
ズルしよるやろ
みんな、ズルしよるやろう
こんな世界で生きてナァ
何になるんや
そこのアンタ
詩なんか書いてアンタ
なんか答えてみぃや
黙っててよう、何のための詩ぃか

睨みつけてばっかり

人生が素晴らしいと言うんなら

心から誓えるか
叫べるんか

ゆうてみろや

派遣社員
泥だらけ途中下車
右膝ジーンズの穴
穴、穴ぼっこ
こりごりの穴ぼっこ
左膝、擦り切れた糸くず
有り金はたいて給料取りに行く
嘘みたいな巧妙
ヘルメット代、制服代
べんきょ出来ないからよくわからないけど何かの保険
言いくるめられた
そう言えばあの時も言い淀んだな

流れるでも滞留するでもない

軸のないカラダになってしまった
軸のないカラダになってしまった

例えなければ、それはただの
あまりにも
ただの

苛々する
苛々して何かしでかすくらいなら
そのまま竜巻にぶち切られて、その終わりと共に消えたい

うまく生きられへんから

うまく生きられへんから

クヮン・アイ・ユウ
現代詩投稿サイトBREVIEWより転載
2018

惑星メメシス

わたしはかんしょう的になって空とぶ

だれもいない砂漠で
黒い肌をした人間がみたことのないダンスをおどっていたので
それを描写しようとしてあきらめた
わたしにはなにもかけない事を
また知らされる
特に書く必要のない存在をかきとめようとする
わたしのこころは
本当につまらないね

つまらないが
しかし、
かくために必要な理由をいつもさがしてる
探したところでなにかあるわけでもない
ただ、いきるために
必要なじかんを

世界中の
唇の気持ち悪さについて
例えば気持ち悪いと思う感情について、
光が窓を通り越して
部屋のなかを明るくする理不尽さ
壁を作れば問題ないというのは
技術があるやつの言い分
そんなものつける理由に乏しすぎる
光をさえぎるためだけなんて

いやいや壁はもっと大事
風や音を遮る
人間を遮る
鳥の鳴き声も
車の音も
それから、
何かを飾れるはずだよ
ひつようなものを
カレンダーとか
絵や花とかを

そういうのは
もう
うんざりだ
そのためだけに壁を作る技術
身につけるのは
ああ、
それをこうして
全部
描かないといけないのも
どうでもいい
わたしは
暗闇に産まれればよかったのか
でも、暗闇に飽きたら
光を求めて
壁の壊し方を覚えようとする
わたしは
わたしの素手ではなにも壊せないことを、知っている
だから
わたしはかいているのだ。
書の中で壁を壊すために

いつも
たどりつく地平は始まりの場所で
極論で
生きられる場所は
終わりの場所だ
ここにあるとすれば
すべて
均衡の問題
反吐が出るほどの仕方なさが
本当に
本当に優秀な死は
10代で輪廻しているのだから
だって
もう二度と
このフィクションを楽しめない
身体に生まれてしまったからには

朝から目覚めてあらゆる存在に気がついてしまえばなにもかも病気になってしまって、わたしはなにもできない小さな唇を開いて大声で泣いたら怒られたので泣きながらうじうじしていた。なぜ、私は私らしく遅刻したり、一日中寝ていたり、部屋でゴロゴロしながらゲームしたりし続ける事を許されていないのか。私は私らしくいきたいのだ。一日中どうでもいい感情でどうでもいい疑問を抱えながら、理不尽に怒られて罵倒されて、罵倒された言葉で落ち込んでその恨みを書きつけてだれかに可愛そうといってもらいたい。世界で一番かわいそうなやつだと言われたいという、感情。

わたしらしさ。という
これは女々しさ
というらしいよ。
いっぱんてきにね

くだらねぇよなぁ?

わたしはどんどんあきらめていく世界で1番あきらめたにんげんになりたい。
泣いていたい
そういう感情が大事だってことつたえたい
大事なかんじょうなんてどこにもないのにね。

毒をはいていたい
嫌われていたい
そして同時に好かれたい
世界で一番なにもしていたくない
こうして書いているのもうんざり
なにも表現したくない
伝えたくない
大事なことなんて、もうすでに誰かが仕事している
わたしなんていらない

何かを書き始めるときに
酩酊が必要なのは
上に書いた感情が邪魔で
それらをそぎ落とすため
毎日生きていると
襲ってくる黒い鳥が本当に邪魔だけど
みんな
そういうやつらと戦いながら書いてるんだろう
意味もなく
でも大事な何かのために
もしくは
遊びのために
もしくは
まじめにふまじめに

反論はすでに用意されているから
ここに書いた話は
対話するためじゃない
わたしのなかの話として
大事なだけ
あなたは
相対的にそういう立ち位置にいる
わたしも
あなたとは違うところにいる
社会よ
くたばれ
わたしに必要じゃないもの以外をのこして

百均
現代詩投稿サイトBREVIEWより転載
2018

右利き

お箸はきれいに持てるかい
さっきの彼は右に並んでいて
そっちに重心が傾いているんだね
あなたは。

頬杖は両方でつくと善いよ
顎関節が歪むのでね
先生は視力にも利き目があると言っていたが
狭い視界でひとり静かに
一体なにを納得してゐるのだ
あなたは。

そうしていづれ
好いことを思いつく

ひだりならもしかして
ひだりならいいんじゃないかな
ひだりくらいならいいかな

ひだりくらいなら
ひだりだけならいいかも
ひだりだけなら

ひだりだけなら

ほうらねえ、

ひだりくらいどうってこたあないじゃあないか

ほうらみて、
ひだりなんだしどうってこたあなかったろう?

ほうら、よく、みて

しょせんひだりだもの
こんなものだ
だから大丈夫、

ひだりだからね

次郎
現代詩投稿サイトBREVIEWより転載
2018

流星

マッチを擦っても
新年の雪みちには犬の影もない
ひと足ごとに
夜の音が消えてゆく
冷気を炎と感じられるほど
ひとを憎むことも
許すことも できなかった
せめて
てのひらで雪を受ければ
いつまでも溶けない冬が
ふたたび訪れることはない病室へ流れていった
それを流星と呼んでいらい
わたしの願いはどこにも届かない
それでも星は
清潔な包帯のように流れつづけた

峯澤典子
あのとき冬の子どもたち」所収
2017

その声はいまも

あの女(ひと)は ひとり
わたしに立ち向かってきた
南三陸町役場の 防災マイクから
その声はいまも響いている
わたしはあの女を町ごと呑みこんでしまったが
その声を消すことはできない

 ”ただいま津波が襲来しています
 高台へ避難してください
 海岸付近には
 絶対に近づかないでください”

わたしに意志はない
時がくれば 大地は動き
海は襲いかかる
ひとつの岩盤が沈みこみ
もうひとつの岩盤を跳ね上げたのだ
人間はわたしをみくびっていた

わたしはあの女の声を聞いている
その声のなかから
いのちが甦るのを感じている
わたしはあの女の身体を呑みこんでしまったが
いまもその声は
わたしの底に響いている

高良留美子
その声はいまも」所収
2017

雨の秋刀魚

頭痛の酷い昼下がりに
あなたのために
シャツにアイロンをかける
一万円札の皺を伸ばして
さびれた郵便局へと
絵を受け取りにあてどなくあるく
あなたのために
柔らかいこのひざを折る
わたしはわたしで
ひとりのにんげんでいたいのに
嘶くような
あなたの叫びにまたしても負けて
あなたが描いた私の裸体を
頬を染めつつ
寝室の奥まったところに飾る
あなたは今どこで
すきっ腹を抱えながら
くらい川を眺めているのか
おんな一人でしゃにむに
生きてきたわたしの在りようは
蟻の如きものと知り
せめてひかる台所に立ち
季節外れの秋刀魚を丁寧に焼く

葉山美玖
Something」26号より。一部改訂。
2017

アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である。そしてそのことがまた、今日詩を書くことが不可能になった理由を語り出す認識を侵食する。絶対的物象化は、かつては精神の進歩を自分の一要素として前提したが、いまそれは精神を完全に呑み尽そうとしているから、
私たちは詩を書こう
それとも
聖母マリアを強姦しに行こうか

首を吊られたくなかったあなたが
首を吊りたくない私に
何かを語りたがる夜
私は雨に溶ける街を歩く

踏切の向こうを
轟音をたてて通り過ぎる列車の野蛮
それを送りだした勤勉な駅員の制服

小林多喜二が虐殺された時空で
ジョバンニがカンパネルラに
思想とは無思想だと
無思想にしか思想はないのだと
それでも無思想は思想なのだと打ち明ける

だから私は
雨の夜、凍えながら
星の下を歩く

蛾兆ボルカ
現代詩投稿サイト「B-REVIEW」より転載
2018

僕の顔

コンタクトつけたまま寝たりしてたら、目に傷がつきまくったらしくて眼科の先生にコンタクトを禁止されたけど、眼鏡は嫌いでいつも裸眼で過ごすことにしたから、ド近眼の僕の視界はひどくぼんやりしてる。好きなあの子のことをずっと見つめていられるのは相手の顔がよく見えなくて、相手の表情が全然分からないから。だから、目が合ったって分からないし、ずっとあの子のことばかり考えながらずっとあの子のことを見つめていたから、クラス中の人に僕が誰のことが好きか知られてしまったし、相手にもバレてしまったけど、そんなことはなんか全然どうでもよくて、その子に話しかけられたときもどういうわけか鋭く睨み返してしまった。

そういえば「この間の文化祭の時に友達が君のこと盗撮してたよ」って友達の子にいわれたけど、僕はいつも堂々と好きな子のことをぼんやり見つめているのだから、その友達の友達の子も目を悪くしてずっと僕のこと見つめていればお互い気兼ねせずに好きな人を好きなだけ見つめていられるのになって思ったけど、あ、そうか他校の子かって変に納得してなんかそのこともどうでもよくなって、僕はこの間怒鳴り合っていた父親と母親の喧嘩の内容について考えていた。

眼科のせいで酷く遅刻して午後に登校したらまだ授業中で教室のほうを見たら同じクラスの子が笑いながら手を振ってくれたので手を振り返した。そういえば下校するときもバス停の前で何人かの子がいつも僕の名前を呼んで手を振りながらバイバイしてくれるけど目が悪いから誰だかよく分からない。教室の中のその子は時々宿題のこととかを聞いてくるからその子のために結構丁寧にノートは書くようにしてたし、今思えばとても綺麗な子だったと思うけど、何か二人で宿題以外の会話したことってあったっけな、あまり覚えていない。

卒業した後に時々その子が夢にでてきたのは意外だったし、なんでなのかよく分からないど、でも結局卒業した後にも連絡くれたのは、告白してきたどこかの知らない人と、あとは僕が好きだった子の友達の子だけで、そのときはカラオケに誘ってくれたけどなんか面倒くさくて断った。僕の好きな子もいるから来ればいいのにっていわれて、そういえばこの子たち、前にも遊びに誘ってくれたのに僕は一度も遊びに行ったことないのを思い出したけど、僕の頭はぼうっとしていてそんなことはもうどうでもよくて、それからちょっと自分の顔のことが気になって、適当に笑って相槌をうってバイバイしたら少し耳鳴りがして耳を塞いだ。

卒業する少し前から僕は体調を壊すことが多くなって、ひどく痩せていってポッキーみたいになっておまけに顔がとても不細工になって友達の男子に「お前不細工になったな」っていわれたときはちょっとショックだったし、中学のときに仲の良かった子にしばらくぶりに会ったときにも「なんか可愛くなくなったね」っていわれて、どうしてだかとても傷ついて、その頃から僕は以前にも増して鏡を見つめていることが多くなって、家に帰ったらイヤホンで音楽聴きながら深夜までずっと鏡を見つめて自分の顔がもう可愛くなくなってしまったことと居間から聞こえてくる両親の喧嘩のことだけを考えていた。

もともとぼうっとしていた視界はもっとぼうっとしてきて、最近はいろいろなことがどうでもいい。昼まで寝て深夜のバイトしながらだらだらと暮らして、グデグデしながらどうしたら僕の顔はもとに戻るんだろうってずっと鏡ばかり見つめて、気づいたらもう女の子は誰も声をかけてくれなくなって、誰も手を振ってくれなくなって、僕はどんどんぼうっとして、部屋には空のペットボトルと読み終わった漫画が散乱して、僕の顔はどんどん醜くなっていって、これだけは全然どうでもよくなくて、部屋から空を見上げたらコンクリートみたいな灰色で、気付いたら夕立になった。近くでカラスが鳴いているのが聞こえて黒い電線の束がぶらんぶらんと揺れているのが見えた。

survof
現代詩投稿サイト「B-REVIEW」より転載
2018

letters

寝室の床、木目をうえへうえへと辿っていくと
色萎えたすみれの花びらへと突き当たる
これは紗代ちゃんのおめかしなの、と
あや子が摘んできたものだ
その花びらに刻み込まれた皺の一つを辿り
幾重にも錯綜する筋に多くのまちがいを繰り返して
やがて最初の皺がすみれの一枚の花びらを横断したころ
昇ってきたのが朝陽だった

紗代ちゃん、とは春にあや子が拾ってきた石であり
紗代ちゃん、とは僕らが迎え入れようとした
新しい家族に与えられるはずの名でもあった
まだ朝が多くを語ろうとしないうちに
それを一瞥し、居間のソファーに腰掛ける
カーテンの隙間から細い光が食卓へ伸びているのを眺めながら
昨晩義母からあった電話のことを考えていた
 呼吸をするときにね
 できるだけ吸う息と吐く息を同じくらいにするの
 そうしたらもう勝手にお腹が膨らんだりしないのよ
あや子の言葉を深刻そうに繰り返す義母を宥めて
細い、ひらすらに細い糸を両腕で抱くような
夜はいつの間にか明けていたのだ

空気清浄機のにおい、とほこり、が
一度も点灯せぬ間に太陽は高くに昇り
鋭く差し込んでいた陽光がちょうど
居間と食卓の境目で戸惑っている
何かを思い出したかのように
湯沸かし器の中の湯が沸騰をはじめたとき
玄関が開いた音がした
一晩見なかっただけのあや子は
拍子抜けするほど明るく
僕にただいま、と言い
紗代ちゃんも、とわらった
その明るさの意味を知ってしまうのが怖かった
そういえば爪を一か月ほど切っていないことに気が付いた

伸びきった陽光をカーテンで遮り
振りむきざまに目に入った寝台のランプ
薄暗い光に照らされたあや子の華奢なからだ
それは封筒にいれられていない便箋のようだった
暴力的なほどに剥き出しであるのに
厳しい戒めのもとに秘匿されている
宛てられたものだけに明かされるはずの秘密は
読まなければ誰に宛てられたものか分からないという矛盾に
頑なに隠されていた
夜も更けていくころ
あや子を抱いているのに
もがいているようだった
無数の糸にからだ中絡めとられて
それを振りほどくために

寝室に置かれた
もう何も泳いでいないはずの水槽に
何かが着水したような音とともに目が覚めた
あや子は居間のソファーに寝転んでいた
何か食べるかい、と聞くと
食べたら紗代ちゃんを返しにいかないとね、と言った
それは奇妙な驚きであり
僕はそれをうまく隠し果せたはずだ
近くの河原まで二人きりで歩く道中
あや子はちらちらと僕の方を覗き見ているようだった
ここね、という合図で立ち止まった先の風景は
見知った河原であったがもう緑に乏しく
それ故に僕は痛ましい気持ちを抱いたのかもしれない
水辺まで降りていくと
朝陽に煌かされた水が
無数のたくらみを蜂起させると同時に
それを悉く無に帰する運動のもとに
無限に流れていくのであった
あや子が隣で手を合わせていることに気が付き
僕も同じように手を合わせて目を瞑った
しばらくの時間が経って
急にあや子の手が僕の手に触れたのを感じ目を開いた
 ねえ
その声の響きはどこか新鮮で驚きに満ちていた
 あなたの手ってまるですみれみたいなのね
意味などなかったのかもしれないが
僕がその意味をわかりかねて
ふとあや子のわらっている顔に目をやると
ひとすじの涙が頬をつたった痕がある
すみれ、でなくともいい
す、と み、と れ、と
その全部で君に咲いていたいと
そう思ったのだ

芦野夕狩
現代詩投稿サイト「B-REVIEW」より転載
2018