昔わたしがその下で唇をかんだ一本の木があった
その木をゆすると夏帽子に音たてて
雨のやうに桃色のをしべが落ちてきた
いまはその木は刈り倒されて
夏帽子にトマトを盛って
泣きなき帰ってきた子供はもうみえない
ひこばえにも花なんか咲かない
中嶋康博
「中嶋康博詩集」所収
1988
昔わたしがその下で唇をかんだ一本の木があった
その木をゆすると夏帽子に音たてて
雨のやうに桃色のをしべが落ちてきた
いまはその木は刈り倒されて
夏帽子にトマトを盛って
泣きなき帰ってきた子供はもうみえない
ひこばえにも花なんか咲かない
中嶋康博
「中嶋康博詩集」所収
1988
夏帽子は中嶋康博さんの許可をいただいた上で掲載しております。
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