街があって
それはいくつもの四角い箱で構成されている
私はその街の
中心よりもやや西に住んでおり
住居はやはり四角い箱である
まず最初に
四角い箱そのものが
私に恐怖を与える
私は自分の住居である四角い箱
もちろんある程度の恐怖を与える私の生活に
カギをかけるのだが
そのカギはかなりおそまつである
そのおそまつさは
やがておこるべきできごとを暗示している
私はその時点で
すでにそれを了承済みである
まず少数のゾンビの集団が現れ
街の人々を襲う
襲われた人はゾンビになってしまう
ゾンビと人間の区別は容易である
ゾンビは左薬指に特殊な指輪をしている
その指輪は
透明感のないグリーンである
指輪をしていないゾンビの場合
爪の色が特殊な緑である
私は寝台に横たわったままの状態で
街の人々の大半がゾンビになってしまったことを知る
私を助けようとする親類縁者がいるのだが
その人もゾンビにされてしまう
そのことを寝台の上の私はまだ知らない
たくさんのゾンビが
私の住居のまわりをかこんでいる
街中でゾンビにされていない人間は
私と、私の他に一人か二人いるかいないか
そんなところだと私は思う
ゾンビが戸をたたいたり
煙突からのぞいたりしている
ゾンビの集団は
おそまつなカギを容易にこわして
私の寝室になだれこんでくる
私はこわれた扉の下にかくれ
スキをついて逃げだす
ゾンビが追ってくる
私の背後に
大アップのゾンビの顔がある
私を助けてくれるはずの親類縁者が
前からやってくる
その左薬指の緑色の指輪を見て
私は息をのむ
「彼もまたゾンビにされてしまった」
急に孤独感が襲ってくる
再びかくれ家にたてこもる私
家全体がぐらぐら揺れている
ゾンビが中に入ろうと
あらゆる壁面を押しているのだ
ガラス窓にはりついた
ゾンビの顔
私はぎりぎりのところまで
追いつめられてしまったことを知る
どうしていいかわからない
体が硬直する
下半身の力が抜け
耳からはオーラが吹きでる
その感覚の中で
ただ混乱している
ゾンビに威圧されて・・・
君もまたゾンビになってしまえばいいのだと
あなたは言うが
私にはできない
榊原淳子
「ボディ・エレクトリック」所収
1988