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詩集の美「せんはうたう」

今回の詩集の美は谷川俊太郎さんの「せんはうたう」です。

本とはただ単に情報を伝える箱ではなく、装丁によって定義された全体のパッケージ、つまり一個の作品なのだと思います。それを強く感じさせられたのが今回ご紹介する「せんはうたう」です。
本屋で一目見た時から、きれいな本だな、手元に置いておきたいなと思いました。電子書籍では、味わえない世界です。

出版社は「ゆめある舎」。谷川俊太郎さんを義理の父親に持つ谷川恵さんが、一人で立ち上げた出版社だそうです。

まずは全体像をご覧ください。

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青い表紙の本が白いシンプルな絵のブックケースに包まれています。挿画は望月通陽(もちづきみちあき)さんです。光文社古典新訳文庫の表紙でおなじみの方。
このぎざぎざにカットされたブックケースが目を引きますね。
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ケースを開けると美しい青い表紙の本が現れます。こちらは谷川俊太郎さんのご子息で、作曲家である谷川賢作さんの「昼の鳥」の楽譜に望月さんが絵を描いたものです。
広げるとこんな感じです。
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元々、この「せんはうたう」の本が生まれたきっかけは、谷川賢作さんの楽譜を出版する際に望月さんに表紙の絵を依頼したところ、61枚ものスケッチをいただき、このまま埋れさせてしまうにはしのびないと思われたことだそうです。
谷川俊太郎さんにこの絵をお渡ししたところ、24枚の作品に詩をつけてくださり、一つの作品として完成されました。

このように一枚の絵に対して一篇の詩が寄せられています。

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全体のデザインはDirectionQの大西隆介さん、製本は美篶堂によるものです。
実に丁寧で素晴らしい仕事をしていると思います。
例えば、このケースの小口の写真をごらんください。

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内側が表紙と同じ美しいブルーに印刷されています。

また、それぞれのページはこのように二つ折りの紙でまとめられています。

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ご覧になると分かると思いますが、こちらも薄い青が付けられています。
この素晴らしい装丁に対して、日本タイポグラフィ年鑑2014受賞エディトリアル部門ベストワーク賞が贈られています。

このように凝ったつくりなので原価率が高く、通常の取次ぎを通せないそうです。ただ、作者の谷川さんより定価は2千円以下でという注文があったそうで、定価は1800円となっています。

ネットでのご購入はこちらよりどうぞ。Amazonにも在庫があるようです。
また実際に手にとって見たい方はこちらのページに在庫している書店のリストがあります。
私は荻窪のTitleさんで購入しました。良い本屋ですよ!

 当サイトではこの「せんはうたう」から一篇の詩を紹介させていただいています。こちらも是非ご覧ください。

「せんはうたう」には望月さんの書いた後書きが載っていますが、この「くつした」の話もなかなか味わい深いです。こちらは是非購入の上、ご一読を!

追記です。
「せんはうたう」の製本を担当された美篶堂の上島明子さんのインタビュー記事です。
とても良い記事なので、よろしければこちらもどうぞ。

詩集の美(中嶋康博詩集)

詩集の美、今回は中嶋康博さんの「中嶋康博詩集」を紹介いたします。

一言で言えば、端整で落ち着きのある趣といったら良いのでしょうか。
濃いブルーのクロス装の表紙は手触りもいいです。

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文字組も大きすぎもせず、小さすぎもせず、絶妙なバランスですね。
まさに詩集らしい詩集と思います。

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中嶋康博さんの先師田中克己氏の「田中克己詩集」の装丁に倣ったとのこと。

TanakaKatsumi-Shishu

写真だけなのでわかりづらいのですが、確かに趣が似ているようです。
出版社も同じ潮流社です。

中嶋さんは四季派の詩人に私淑し、その流れを汲む作品を書いていらっしゃいます。
この詩集には1988年の「夏帽子」、1993年の「蒸気雲」、2冊分の詩篇とその後の作品が収められています。
登山、山についての詩が多く、読んでいて、まるで自分が今夏山の中にいるような感覚になりました。

当サイトではこの「中嶋康博詩集」より「夏帽子」と「音楽」の二篇を紹介させていただいています。
是非読んでみてくださいね!

AmazonへのLinkはこちらです。

また、中嶋康博さんは、四季派を中心とした詩集目録のサイトを運営されてます。圧倒的なデータ量の大変な労作です。資料的価値も非常に高いので、ご興味のある方は一度のぞいて見てください。こちらです。

詩集の美 「裾花」

詩集の美、第3回目は杉本真維子さんの「裾花」を紹介いたします。
「裾花」は杉本真維子さんの3冊目の詩集で2015年の第45回高見順賞を受賞した作品です。

まず目を引くのがこのビビッドな赤い色です。
白地に赤い文字、赤地に白い文字と鮮やかなコントラストが美しいですね。

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写真では分かりにくいのですが、この表紙は実は一枚の紙を折ってこのような形になっています。
つまり、表が赤、裏が白い紙の上下を折りこんで、このように一つの表紙としてまとめているのですね。

広げてみるとこんな感じです。

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このような一風変わった紙使いが、特殊な効果を生んでいます。
私は、まるで人間の皮膚がぱっくりと割れて赤い血が覗いて見えるような感覚を覚えました。

この詩集の内容にぴったりの素晴らしい装丁だと思います。菊地信義さんの仕事です。

菊地さんは、詩や小説の装丁を作る際は、内容を読み込んで、どうすれば、それを人に伝えられる形に翻訳できるかを考えるそうです。菊地さんはこの赤で「裾花」の何を伝えようとしているのでしょうか?

カバーを取るとこのようになっています。完全な赤色です。

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「裾花」には24編の詩が収められています。そのどれもが高密度でぐいぐいとせまってくるような迫力があります。
私はまぎれもない傑作だと思います。

当サイトにて「裾花」から一篇、「一センチ」を紹介させていただいています。
是非皆さんも読んでみてください。

アマゾンのLinkはこちらです。

主に語尾の話

うまくもなくまずくもない行きつけの定食屋で
もそもそ野菜炒め定食を食べていた時だ
マンガ雑誌の棚の上に無造作に置かれた埃っぽいブラウン管テレビには
体操女子の競技会のニュースが映し出されていた
優勝した選手がインタビューに答えている
中学2年か、初々しいな
化粧っ気のない頬を紅潮させている

それをじっと見ていたハゲ頭の店のオヤジは
染みのついた前掛けを掛けた店のオヤジは
オタマを手にしたまま急に怒り出したのだ
「最近のコは何であーやって語尾を無駄に伸ばすんだ?
いつまでも赤ちゃんみたいな喋り方しやがって
親のしつけがなってねぇんだな」

おーっ、オヤジ、さすがだねえ
長く生きてると
目のつけどころが違うねえ

さっき見事な平均台の演技映ってたでしょ
あんなの毎日死ぬほど練習しなきゃできないよ
あのコ、かわいい顔してるけどすごい根性あるよ
ご両親のサポートも立派だと思うよ

でもそんなのオヤジのアンテナには引っかからない
見たいものしか見ない能力
聞きたいことしか聞かない能力
どのくらい努力すれば身につくんだろうか

オヤジの努力
それはきっとオリンピックを目指す体操選手の努力と一緒
来る日も来る日も関心外の出来事を無視し続ける練習をすること
小惑星探査機「はやぶさ」が無事帰還しました、と感激するアナウンサーを見て
「あんな派手なネクタイするかね」とだけ言ったオヤジだ
いつもピントが合いすぎている

じゃあさ
方向を変えてやればあのコともメッチャうまくやれるんじゃない?

はい、講師にあの体操少女をお呼びしました
よろしくお願いします
「よろしくお願いしますぅっ」
オヤジは仏頂面して黙ったまま
「それではまず平均台の上に立っていただけますかぁ」
ごそごそ上ろうとするが平均台は意外と高さがある
足が上がらないオヤジは何度もずり落ちてしまう
台にしがみついて、上体を乗せて、腰をずりずりさせて
はい、やっと這い上がれました
でも平均台にしがみついたままだ
「立てますかぁ?」
オヤジはしかめっ面しながら体を持ちあげようとするけれど
ダメだ、台にへばりつくばかり
「それでわぁ、支えますのでぇ、ゆっくり立ち上がって下さいねぇ」
体操少女の肩に掴まってぶるぶる震えながら立ち上がるオヤジ
体操少女がしっかり膝を支えているから大丈夫だ
「すごいですぅ、立ち上がれましたねぇ、それでわぁ歩いてみて下さいぃ」
オヤジは目を白黒させてぶんぶん首を振る
「うーん、じゃあ、元気をつけるために声をだしてみましょうかぁ
でわぁ、『私は日本人ですぅ』」
「私は日本人です」
「『です』じゃなくて『ですぅ』ですぅ」
「私は日本人で、す、ぅ」
「そうそう、いい感じですよぉ、それじゃ『いいお天気ですねぇ』」
「いいお天気、です、ね、ぇ」
「ちょっとお伺いしたいんですけどぉ、はどうでしょうかぁ」
「ちょっとお伺いしたいんですけどぉ」
「すごいすごい、すごいですぅ、完璧ですよぉ」

オヤジはそれには答えずニコリともしないまま
そろりそろりと平均台の上を歩き出し
やがて、タッタッタッと走り出すと
えいぃ、とジャンプして
くるりと一回転
すたっと平均台の上に着地
微動だにしない
すごいなあ、オヤジ
やったなあ、オヤジ
と体操少女と手を取り合って喜んでいるうち
オヤジはいつのまにかすーーーーーっと長く伸びた平均台の上を
「私は日本人ですぅ」
「いいお天気ですねぇ」
「ちょっとお伺いしたいんですけどぉ」
と繰り返し叫びつつ
タッタッタッ、くるっと回転していく

遠くへ、遠くへ
もう点のようにしか見えない
同じ台詞を反復する声だけが微かに聞こえてくる……

でまあ、いくら待っても戻ってこないわけ
ぼくは体操少女と一緒に定食屋に戻ることにした
「しょーがないですねぇ、しばらくの間だけですよぉ」
オヤジの代わりに体操少女が染みのついた前掛けを掛け
オタマを手にする
まだちょっとぎこちないがおじけづいた様子はない
ぼくは食べかけだった野菜炒め定食を平らげることにした
「ごちそうさま」と言って立ち上がると、体操少女は
「3番さん、おあいそーっ」とおかみさんに向かって元気に声を張り上げた

よしよし、その調子だ
オヤジが修行の旅を終えるまで
立派に店をきりもりしてくれるに違いない
語尾もしっかり伸ばしているから体操界への復帰も容易いだろう
それじゃ、来週また寄るからね
おやすみなさいー

辻和人
Poetry Port」掲載作品
2011

Suppose An Eyes

Suppose it is within a gate which open is open at the hour of closing summer that is to say it is so.

All the seats are needing blackening. A white dress is in sign. A soldier a real soldier has a worn lace a worn lace of different sizes that is to say if he can read, if he can read he is a size to show shutting up twenty-four.
Go red go red, laugh white.

Suppose a collapse in rubbed purr, in rubbed purr get.

Little sales ladies little sales ladies little saddles of mutton.

Little sales of leather and such beautiful beautiful, beautiful beautiful.

 

Gertrude Stein

From “Tender Buttons”

1914

詩集はどこに売っているのか

鈴木志郎康さんの詩ではないですが、本当に詩集って売っていないです。
町の小さな書店はもちろん、下手をするとかなり大型の書店であっても詩集を置いていないことが多いです。
そこで、今回は私が調査した結果をここに公表し、実際に詩集を購入する方々のためにご参考にしていただきたいと思います。私が実際に足を運べる範囲でしかないので、不完全な部分もあると思います。もし皆さんが情報をお持ちでしたら下にあるコメント欄で是非シェアしてくださいね。

それでは紹介していきましょう!(赤文字をクリックするとリンク先のサイトが見られますよ!)

 

都内の書店ではこちらですね。

八重洲ブックセンター

六階とやや行きにくいフロアですが、詩集が豊富に揃っています。都内ではジュンク堂書店と並んで一番の品揃えではないでしょうか?日本の詩集、海外の詩集、詩論と、それぞれに一つの棚が割り当てられています。また現代詩手帖に代表される雑誌、同人誌も置いています。

ジュンク堂書店池袋店

上記八重洲ブックセンターとほぼ同じレベルの品揃えです。落ち着いた雰囲気なのでゆっくり詩集を選べると思います。

東京堂書店

意外ですが、神保町の書店で、上記八重洲ブックセンター、ジュンク堂よりも、詩集の品揃えが多いところはありませんでした。その中でも比較的、東京堂書店は多いほうでしたね。

三省堂書店

東京堂書店と並ぶ神保町を代表する大型店ですね。こちらも多いほうです。

他に青山ブックセンター紀伊国屋書店新宿本店も充実しています。
現代詩手帖の2016年10月号に紀伊国屋書店新宿本店で文芸棚を担当している梅﨑実奈さんと穂村弘さんの対談が載っています。棚作りに対する情熱が語られていて読み応えがあります。

 

リアルの本屋での限られたスペースで詩集を置けるのはやはり一部の大型書店に限られるのでしょうか?
どこかに詩集の専門店とかはないのですかね?

リアルの本屋以外では、言わずと知れたアマゾンがありますね。当サイトも出典詩集の名前にアマゾンのリンクを付けています。気になった詩があれば、購入を検討されてはいかがでしょう?

詩集は刷り数が少ないせいか、アマゾンでも品切れになっていることが多いです。場合によってはプレミアがついて定価より高くなっていることもあります。

その場合は出版社のサイトで直接注文することもできます。

まずは詩と言えばこの出版社、思潮社です。
このサイトの在庫一覧でチェックした上で、注文フォームでどうぞ。

そして書肆山田
こちらは在庫の検索はできますが、注文は書店経由となるようです。

詩の出版社ミッドナイトプレス
サイト内に出版目録があります。一部は直接注文できるものもあるようです。サイト内にはエッセイや様々な詩を紹介するコーナーがあり、見ているだけで楽しいですよ!

最後に詩集を扱っている古書店を紹介します。

まずは何と言っても石神井書林さん。いぜんこのサイトでも紹介させていただきました。
店舗が無く、目録販売のみの書店です。
上記のサイトに目録発送依頼の方法が載っています。切手を買って郵便で送ってくださいね。(メールアドレスも載っていますが、以前送っても反応が無かったので、たぶん見ていないのだと思います・・・・)
レア物の本ばかりなので、値段もはりますが、目録を読んでいるだけで充分楽しいと思いますよ。目録の値段は200円です!

それから書肆田髙さん。
こちらはネットでの購入も可能です。

私が集めた情報はこのくらいですが、もし皆さんも素敵な書店をご存知でしたら紹介してくださいね!

 

一点追加です。

詩集の販売ではないですが、多くの詩集を集めた資料館を富沢智さんが運営してらっしゃいます。
榛名まほろば資料館現代詩資料館で蔵書は二万五千冊以上あるそうです。場所は群馬になります。

さらに一点追加です。
大阪に歌集・句集・詩集専門の古書店があるようです。
葉ね文庫
Webを見る限りはなかなか趣のある本屋のようです。一度行って見たい!
TwitterFacebookもあるようですよ。関西在住の方は足を運んでみては?

さらに追加です。
まずは出版社。北村太郎の詩から名前を取った港の人
活版印刷による美しい装丁の詩集を発行しています。(もちろん北村太郎も!)上記のページから直接注文もできるようです。

そして、書肆田髙さんにTwitterでご紹介いただいた渋谷の中村書店こちらの記事を読む限り、歴史あるすごい書店のようです。他に、中野ブロードウェイにある古書うつつ、三鷹の水中書店、池袋の古書往来座、荻窪のささま書店を教えていただきました。情報ありがとうございます!

 

紙ヒコーキ

おまえのいなくなった部屋に

紙ヒコーキがひとつ落ちている

ぼくが催しでもらってきたもの

仕事が一段落したら

公園で飛ばしてやろうと思っていたが

その前に

おまえの方が空高く

いってしまった

 

休日のよく晴れた午後

外に出て

ひとり公園に行く

楽しげに親子連れが遊んでいる

ボールを蹴ったり

バドミントンをしたり

砂遊びをしたり・・・・・・・

 

ぼくは

持ってこなかった紙ヒコーキを手に持って

思いきり

空に向かって飛ばす

それは高く軌跡を描いて飛んでいく

おまえはよろこぶ

ぼくのとなりで

そうしていつまでも

ふたりでその跡を追っている

 

高階杞一

早く家へ帰りたい」所収

1994

The Lighted Window

 He said:

“In the winter dusk

When the pavements were gleaming with rain,

I walked thru a dingy street

Hurried, harassed,

Thinking of all my problems that never are solved.

Suddenly out of the mist, a flaring gas-jet

Shone from a huddled shop.

I saw thru the bleary window

A mass of playthings:

False-faces hung on strings,

Valentines, paper and tinsel,

Tops of scarlet and green,

Candy, marbles, jacks—

A confusion of color

Pathetically gaudy and cheap.

All of my boyhood

Rushed back.

Once more these things were treasures

Wildly desired.

With covetous eyes I looked again at the marbles,

The precious agates, the pee-wees, the chinies—

Then I passed on.

 

In the winter dusk,

The pavements were gleaming with rain;

There in the lighted window

I left my boyhood.”

 

Sara Teasdale

From “Rivers to the Sea”

1915

境界の向こう

第2回目の「詩集の美」シリーズ、前回の小林坩堝さんの「でらしね」に続き、今回は宮岡絵美さんの「境界の向こう」を紹介いたします。

2015年10月に刊行された「境界の向こう」は宮岡さんの三年ぶり2冊目の詩集になります。

銀の線が真っすぐに引かれたシンプルで美しい装丁です。装丁を担当されたのは思潮社装幀室。

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カバーを外すと一見ノートのような真っ白な姿。

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しかし、よく見るとタイトルが背表紙に型押しされています。おしゃれですね。

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宮岡絵美さんは大阪枚方市在住で京都工芸繊維大学の応用生物学科出身でらっしゃいます。

この詩集にも理系の感性が存分に盛り込まれています。

我々が科学の深遠に向かい合うときに感じるセンスオブワンダーと詩情が一つに融合されたと言ったらよいのでしょうか?

今までにないタイプの詩だと思います。

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帯文で宮地尚子さんが 「太陽系のなかのひとりの子ども」が透明なことばを生み出した。 と書いてらっしゃいますが、正にこの詩集の本質をついている言葉だと思いました。

当サイトではこの詩集から「境界の向こう」を紹介させていただいています。

宮地尚子さんは文化精神医学を専門にされている精神科医です。

アマゾンのリンクはこちら。思潮社刊行で税別2200円です。

境界の向こう

あの丘の上に登れば

何かが見えてくるような気がしている

 

ただ思考を記録するのだった

いつかくる明日の為に

ああ ああ 拍動

 

そして雲は流れていった

飛ぶように風

 

私の時は未だ定かでない

エピジェネティックなスティグマ

我々の影

消えない悲しみを持った人は

冬の星座のようだ

 

(いつまで考え続けるの?)

(もちろん、死ぬまで)

 

時を辿る風の眼

その向こうに何かが見えるまで

足元のシロツメクサの緑が風にそよぎ

わたしはそれを詩だと思う

それは或いは数学かもしれないのだが

どうやら理論値という言葉にも

詩はあるようだ

 

我々は限りなく違いを有していて

それこそが希望で有り得るのだろう

 

ドアを開くのは

境界を越えてゆくのは

やはり君だから

真実について語ってくれないか

国境など人間が決めたものだからと

この世界には

図式化された二項対立など無いのだと

深く被った麦藁帽子の網目に透ける太陽の光

透明な風に木の葉がさらさらと鳴って

その音ばかり追いかけている

 

宮岡絵美

境界の向こう」所収

2015