五月

ふり返ってはいけない
きのうが明日だった日のことを
はるばる遠い 気の遠くなるほど
遠い明日のために
うつぎの花が咲いている

動物には おのれの姿は目にうつらない
獲物に追いつく すると獲物が
その動物になる
おまえの歩みがわたしに一歩
先立つとき
ふたりのあいだに
森と木洩れ陽がうまれ
猟場の角笛が
こだまを交しはじめる

<ふり返ってはいけない>というのに
<だれも気にしていない動物がいるだけ>というのに
駆けまわる馬の やさしいいななきが
いま おまえの腕を包んでいる

杉本秀太郎

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