おまえは勝手に死んだ。
おまえの仕事を
くさすこともできない。
おれは徘徊して世間のなかにとりのこされた。
今日までの長い秋。
薄っ原の武蔵野を
腹立たしく歩き疲れて
日が暮れた。
あくせく働き、生きねばならぬ。
あくせく生きる。
何故にだ。
そんなこと知るか。
おまえは反対し、おれは反論する。
くらくなった道を
村はずれの
酒を売る店にはいって1ぱい飲んだ。
気みじかに酔って、たがいに結論をせきたて
首肯せず、同意せず。
口をあけて炎のように酒臭い。
突き出すように外に出れば
薄く低く、くろい富士。
白くゆれる薄っ原がひろびろとあった。
郊外電車に乗ってあの居酒屋に行かねばならぬ。
死んでしまったおまえのように
たずねようもなくなった薄っ原。
ずしっと東京の
建込んだ家並の向う。
幾年も幾年もたってからあの富士が見えたのだ。
竣工したばかりの駅の
コンクリートの腹立たしく高いブリッジから。
秋山清
「季節の雑話」所収
1978