隣人とか
肉親とか
恋人とか
それが何であろう――
生活の中で食うと言う事が満足でなかったら
描いた愛らしい花はしぼんでしまう
快活に働きたいものだと思っても
悪口雑言の中に
私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。
両手を高くさしあげてもみるが
こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか!
いつまでも人形を抱いて沈黙っている私ではない。
お腹がすいても
職がなくっても
ウヲオ! と叫んではならないんですよ
幸福な方が眉をおひそめになる。
血をふいて悶死したって
ビクともする大地ではないんです
後から後から
彼等は健康な砲丸を用意している。
陳列箱に
ふかしたてのパンがあるが
私の知らない世間は何とまあ
ピアノのように軽やかに美しいのでしょう。
そこで始めて
神様コンチクショウと吐鳴りたくなります。
林芙美子
「蒼馬を見たり」所収
1929