苦しい唄

隣人とか

肉親とか

恋人とか

それが何であろう――

 

生活の中で食うと言う事が満足でなかったら

描いた愛らしい花はしぼんでしまう

快活に働きたいものだと思っても

悪口雑言の中に

私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。

両手を高くさしあげてもみるが

こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか!

いつまでも人形を抱いて沈黙っている私ではない。

 

お腹がすいても

職がなくっても

ウヲオ! と叫んではならないんですよ

幸福な方が眉をおひそめになる。

 

血をふいて悶死したって

ビクともする大地ではないんです

後から後から

彼等は健康な砲丸を用意している。

陳列箱に

ふかしたてのパンがあるが

私の知らない世間は何とまあ

ピアノのように軽やかに美しいのでしょう。

 

そこで始めて

神様コンチクショウと吐鳴りたくなります。

 

林芙美子

蒼馬を見たり」所収

1929

2 comments on “苦しい唄

  1. 林芙美子さんの「うずしお」その他を読んで、その当時の芙美子さんの生活が痛々しくて—–。
    働かなければ生きていけない、その強さと信念に心を動かされました。私たちはなんて楽に生きて
    いることか、と改めて思いました。その芙美子さんの詩にもまた生きることへの執着心と、そして
    生への希望も感じます。一介の主婦でしかない私ですが、このようにたくましく生きる女性の姿に
    勇気づけられます。 いつまでも人形を抱いて沈黙っている私のままではいけないと思いました。
    ありがとうございました。

    1. 林芙美子の詩はパワーにあふれていますよね。
      読んでいて不思議に元気づけられます。

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