秋の日の下、物思いの午後、芝生の上。
取り出せるは、皺になれる敷島の袋、
残れる一本を、くわえて、火を点ず、
残れる火を、さて敷島の袋にうつす、
秋の日の下、物思いのひるさがり、芝生の上、
めらめらと、袋は燃ゆらし 灰となりゆく、
あわれ、我が肺もこの袋の如、
日に夜に蝕まれゆくか、
秋の日の下、くゆらす煙草のいとからし。
梶井基次郎
「梶井基次郎全集」所収
1922
秋の日の下、物思いの午後、芝生の上。
取り出せるは、皺になれる敷島の袋、
残れる一本を、くわえて、火を点ず、
残れる火を、さて敷島の袋にうつす、
秋の日の下、物思いのひるさがり、芝生の上、
めらめらと、袋は燃ゆらし 灰となりゆく、
あわれ、我が肺もこの袋の如、
日に夜に蝕まれゆくか、
秋の日の下、くゆらす煙草のいとからし。
梶井基次郎
「梶井基次郎全集」所収
1922
Who can make a delicate adventure
Of walking on the ground?
Who can make grass-blades
Arcades for pertly careless straying?
You alone, who skim against these leaves,
Turning all desire into light whips
Moulded by your deep blue wing-tips,
You who shrill your unconcern
Into the sternly antique sky.
You to whom all things
Hold an equal kiss of touch.
Mincing, wanton blue-bird,
Grimace at the hoofs of passing men.
You alone can lose yourself
Within a sky, and rob it of its blue!
Maxwell Bodenheim
From “Introducing Irony“
1920
死ぬ。
産れる。
泣く。喚く。
気が狂ふ。
へたばる。のたくる。
跳ねあがる。
踊る。舞ふ。
突き飛ばす。
裸身。交接。褌衣。襤褸。大禮服。
流行する。時代遅れ。
破産。強制執行。蔵が建つ。
貴族。私生児。野良息子。才子。
多病。薄命。不良少年。
うろつく。闊歩する。
拘留。宿直。
大道で犬が交尾む。
中流婦人の萬引。坊主の人殺し。
停電。
活動写真のニコニコ大会。
惨めな葬列。
日比谷大神宮の物々しい結婚式。
車夫汗みどろ。
ポイント・マンの大あくび。
幇間のイヒヒ笑ひ。
相川俊孝
「万物昇天」所収
1924
霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ
影を落す影を落す
エンタシスある氷の柱
そしてその向ふの滑らかな水は
おれの病気の間の幾つもの夜と昼とを
よくもあんなに光ってながれつゞけてゐたものだ
砂つちと光の雨
けれどもおれはまだこの畑地に到着してから
一つの音をも聞いてゐない
宮沢賢治
「詩ノート」所収
1926