ここは何処なのか

遠いことはいいことだ
愛が 憎しみが 心だって
なにもかも遠くなる

丘に日がしずみ
水がこきざみにながれ
やさしい空気が道に迷う

別れることはいいことだ
なにもかもひとすじになって自分に帰ってくる
沈黙だって
時だって
自分の影だって
見えないものがすべて自分のものだ

ひとりになる
死をたぐりよせてみる
やさしい自分のさいごをいたわってみる
まごうかたなくそれは自分なのだ

ああ在りし日にぼくはどこを彷徨っていたのか
ここは何処なのか

嵯峨信之
「アリゼ」9月号掲載
1988

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