風景 純銀もざいく

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

かすかなるむぎぶえ

いちめんのなのはな

 

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

ひばりのおしやべり

いちめんのなのはな

 

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

いちめんのなのはな

やめるはひるのつき

いちめんのなのはな。

 

山村暮鳥

聖三稜玻璃」所収

1915

大砲を撃つ

わたしはびらびらした外套をきて

草むらの中から大砲を引き出してゐる。

なにを撃たうといふでもない

わたしのはらわたのなかに火薬をつめ

ひきがえるのやうにむつくりとふくれてゐよう。

さうしてほら貝みたいな瞳だまをひらき

まつ青な顔をして

かうばうたる海や陸地をながめてゐるのさ。

この辺のやつらにつきあひもなく

どうせろくでもない貝肉のばけものぐらゐにみえるだらうよ。

のらくら息子のわたしの部屋には

春さきののどかな光もささず

陰鬱な寝床のなかにごろごろとねころんでゐる。

わたしをののしりわらふ世間のこゑごゑ

だれひとりきてなぐさめてくれるものもなく

やさしい婦人のうたごゑもきこえはしない。

それゆゑ私の瞳だまはますますひらいて

へんにとうめいなる硝子玉になつてしまつた。

なにを喰べようといふでもない

妄想のはらわたに火薬をつめこみ

さびしい野原に古ぼけた大砲をひきずりだして

どおぼん どおぼんとうつてゐようよ

 

萩原朔太郎

青猫」所収

1923

 

帰郷

柱も庭も乾いている

今日は好い天気だ

縁の下では蜘蛛の巣が

心細そうに揺れている

 

山では枯木も息を吐く

ああ今日は好い天気だ

路傍の草影が

あどけない愁みをする

 

これが私の故里だ

さやかに風も吹いている

心置なく泣かれよと

年増婦の低い声もする

 

ああ おまえはなにをして来たのだと・・・・・・

吹き来る風が私に云う

 

中原中也

山羊の歌」所収

1932

北の海

海にいるのは、

あれは人魚ではないのです。

海にいるのは、

あれは、浪ばかり。

 

曇った北海の空の下、

浪はところどころ歯をむいて、

空を呪っているのです。

いつはてるとも知れない呪い。

 

海にいるのは、

あれは人魚ではないのです。

海にいるのは、

あれは、浪ばかり。

 

中原中也

在りし日の歌」所収

1937

骨 

ホラホラ、これが僕の骨だ、

生きていた時の苦労にみちた

あのけがらわしい肉を破って、

しらじらと雨に洗われ

ヌックと出た、骨の尖。

 

それは光沢もない、

ただいたずらにしらじらと、

雨を吸収する、

風に吹かれる、

幾分空を反映する。

 

生きていた時に、

これが食堂の雑踏の中に、

坐っていたこともある、

みつばのおしたしを食ったこともある、

と思えばなんとも可笑しい。

 

ホラホラ、これが僕の骨───

見ているのは僕? 可笑しなことだ。

霊魂はあとに残って、

また骨の処にやって来て、

見ているのかしら?

 

故郷の小川のへりに、

半ばは枯れた草に立って、

見ているのは、 ─── 僕?

恰度立札ほどの高さに、

骨はしらじらととんがっている。

 

中原中也

在りし日の歌」所収

1937