ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きていた時の苦労にみちた
あのけがらわしい肉を破って、
しらじらと雨に洗われ
ヌックと出た、骨の尖。
それは光沢もない、
ただいたずらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きていた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐っていたこともある、
みつばのおしたしを食ったこともある、
と思えばなんとも可笑しい。
ホラホラ、これが僕の骨───
見ているのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残って、
また骨の処にやって来て、
見ているのかしら?
故郷の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立って、
見ているのは、 ─── 僕?
恰度立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがっている。
中原中也
「在りし日の歌」所収
1937