I Am the Only Being Whose Doom

I am the only being whose doom
No tongue would ask, no eye would mourn;
I never caused a thought of gloom,
A smile of joy, since I was born.

 

In secret pleasure, secret tears,
This changeful life has slipped away,
As friendless after eighteen years,
As lone as on my natal day.

 

There have been times I cannot hide,
There have been times when this was drear,
When my sad soul forgot its pride
And longed for one to love me here.

 

But those were in the early glow
Of feelings since subdued by care;
And they have died so long ago,
I hardly now believe they were.

 

First melted off the hope of youth,
Then fancy’s rainbow fast withdrew;
And then experience told me truth
In mortal bosoms never grew.

 

’Twas grief enough to think mankind
All hollow, servile, insincere;
But worse to trust to my own mind
And find the same corruption there
Emily Brontë
1848

 

走る走る走る

走る走る走る

黄金の小僧ただ一人

入日の中を走る、走る走る

ぴかぴかとくらくらと

入日の中へとぶ様に走る走る

走れ小僧

金の小僧

走る走る走る

走れ金の小僧

 

村山槐多

槐多の歌へる」所収

1919

小景異情

その一

 

白魚はさびしや

そのくろき瞳はなんといふ

なんといふしほらしさぞよ

そとにひるをしたたむる

わがよそよそしさと

かなしさと

ききともなやな雀しば啼けり

 

その二

 

ふるさとは遠きにありて思ふもの

そして悲しくうたふもの

よしや

うらぶれて異土の乞食となるとても

帰るところにあるまじや

ひとり都のゆふぐれに

ふるさとおもひ涙ぐむ

そのこころもて

遠きみやこにかへらばや

遠きみやこにかへらばや

 

その3

 

銀の時計をうしなへる

こころかなしや

ちよろちよろ川の橋の上

橋にもたれて泣いてをり

 

その四

 

わが霊のなかより

緑もえいで

なにごとしなけれど

懺悔の涙せきあぐる

しづかに土を掘りいでて

ざんげの涙せきあぐる

 

その五

 

なににこがれて書くうたぞ

一時にひらくうめすもも

すももの蒼さ身にあびて

田舎暮しのやすらかさ

けふも母ぢやに叱られて

すもものしたに身をよせぬ

 

その六

 

あんずよ

花着け

地ぞ早やに輝やけ

あんずよ花着け

あんずよ燃えよ

ああ あんずよ花着け

 

室生犀星

叙情小曲集」所収

1918

Sonnet 60

Like as the waves make towards the pebbl’d shore,
So do our minutes hasten to their end;
Each changing place with that which goes before,
In sequent toil all forwards do contend.
Nativity, once in the main of light,
Crawls to maturity, wherewith being crown’d,
Crooked eclipses ‘gainst his glory fight,
And Time that gave doth now his gift confound.
Time doth transfix the flourish set on youth
And delves the parallels in beauty’s brow,
Feeds on the rarities of nature’s truth,
And nothing stands but for his scythe to mow:
And yet to times in hope my verse shall stand,
Praising thy worth, despite his cruel hand.
 
William Shakespeare
“Sonnets”
1609

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 

三好達治

測量船」所収

1930

雨ニモマケズ

雨ニモマケズ

風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

丈夫ナカラダヲモチ

慾ハナク

決シテ瞋ラズ

イツモシヅカニワラッテヰル

一日ニ玄米四合ト

味噌ト少シノ野菜ヲタベ

アラユルコトヲ

ジブンヲカンジョウニ入レズニ

ヨクミキキシワカリ

ソシテワスレズ

野原ノ松ノ林ノ※(「「蔭」の「陰のつくり」に代えて「人がしら/髟のへん」、第4水準2-86-78)

小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ

東ニ病気ノコドモアレバ

行ッテ看病シテヤリ

西ニツカレタ母アレバ

行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ

南ニ死ニサウナ人アレバ

行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ

北ニケンクヮヤソショウガアレバ

ツマラナイカラヤメロトイヒ

ヒドリノトキハナミダヲナガシ

サムサノナツハオロオロアルキ

ミンナニデクノボートヨバレ

ホメラレモセズ

クニモサレズ

サウイフモノニ

ワタシハナリタイ

 

宮沢賢治

1933

汚れっちまった悲しみに

汚れっちまった悲しみに

今日も小雪の降りかかる

汚れっちまった悲しみに

今日も風さえ吹きすぎる

 

汚れっちまった悲しみは

たとえば狐の革裘

汚れっちまった悲しみは

小雪のかかってちぢこまる

 

汚れっちまった悲しみは

なにのぞむなくねがうなく

汚れっちまった悲しみは

倦怠のうちに死を夢む

 

汚れっちまった悲しみに

いたいたしくも怖気づき

汚れっちまった悲しみに

なすところもなく日は暮れる・・・・・・

 

中原中也

山羊の歌」所収

1934

光る地面に竹が生え、

青竹が生え、

地下には竹の根が生え、

根がしだいにほそらみ、

根の先より繊毛が生え、

かすかにけぶる繊毛が生え、

かすかにふるえ。

 

かたき地面に竹が生え、

地上にするどく竹が生え、

まっしぐらに竹が生え、

凍れる節節りんりんと、

青空のもとに竹が生え、

竹、竹、竹が生え。

 

萩原朔太郎

月に吠える」所収

1917

道程

僕の前に道はない

僕の後ろに道は出来る

ああ、自然よ

父よ

僕を一人立ちにさせた広大な父よ

僕から目を離さないで守る事をせよ

常に父の気魄を僕に充たせよ

この遠い道程のため

この遠い道程のため

 

高村光太郎

道程」所収

1914

レモン哀歌

そんなにもあなたはレモンを待っていた

かなしく白くあかるい死の床で

わたしの手からとった一つのレモンを

あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

トパァズいろの香気が立つ

その数滴の天のものなるレモンの汁は

ぱっとあなたの意識を正常にした

あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑う

わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

あなたの咽喉に嵐はあるが

こういう命の瀬戸ぎわに

智恵子はもとの智恵子となり

生涯の愛を一瞬にかたむけた

それからひと時

昔山巓でしたような深呼吸を一つして

あなたの機関はそれなり止まった

写真の前に挿した桜の花かげに

すずしく光るレモンを今日も置こう

 

高村光太郎

智恵子抄」所収

1941