広野の上に日は遠く歩いてゆき、
水は私を押し流す、
私のからだの上、心の上に過ぎてゆく月、日、
その軽やかな親しい足取り。
私は土を耕し、
吹き過ぎる風に種を播き、
ほうぼうと芽生えが伸び、
雑草がはびこり、徒らに露がしげく。
五月、六月、空に渦巻く光の渦、
草むらにとんぼ返りを打つ蜻蛉、
五月、六月、目にも見えず栗の花が散り、
ひそかに無花果が葉のかげに熟し、やがて地に落ち。
それ等虫けらと葉つ葉のなかに
鮮かに生長する神話、
うつりゆく季節、
子どもの心を押しひろげてゆく時間。
樹々の枝を吹き過ぎる朝の風は
鋭い指に日々の暦を繰りひろげ、
夕、古い木の葉を吹き散らして
日めくりの紙片を一枚一枚引きちぎる。
私は私の上に歴史の歩みを感じる、
私は私の心を、からだを耕し、
私自身の上に種を播き、
草々がはびこり、花が咲き、日がたける。
私は時間に押し流されながら、
私のうちらに神そのものの軽やかな足取りがあり、
一枚、一枚、頁を数へながら、
楽しく繰りひろげてゆく日々の絵暦。
竹内勝太郎
1935