ゆふすげびと

かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
それはひとつの花の名であつた

それは黄いろの淡いあはい花だつた、
僕はなんにも知つてはゐなかつた

なにかを知りたく うつとりしてゐた、
そしてときどき思ふのだが一体なにを
昨日の風は鳴つてゐた、林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に咲いてゐた、そうしてけふもその花は
思ひなしだか 悔ゐのやうに――。
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔ゐなく去らせたほどに! 

立原道造
拾遺詩編」所収
1939

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