Category archives: 1920 ─ 1929

七つの子

烏 なぜ啼くの

烏は山に

可愛七つの

子があるからよ

 

可愛 可愛と

烏は啼くの

可愛可愛と啼くんだよ

 

山の古巣に

いって見て御覧

丸い目をした

いい子だよ

 

野口雨情

1921

どんぐりころころ

どんぐりころころ ドンブリコ

お池にはまって さあ大変

どじょうが出て来て 今日は

坊ちゃん一緒に 遊びましょう

 

どんぐりころころ よろこんで

しばらく一緒に遊んだが

やっぱりお山が 恋しいと

泣いてはどじょうを 困らせた

 

青木存義

1921

かすてらの

こげた匂をかぐときは

わたしはままを思ひだす。

 

らんらたの

ちやぺるの鐘をきくときは。

わたしはままを思ひだす。

 

南天の

紅実に雪のふるときは

わたしはままを思ひだす。

 

遠山に

銀の雨ふる冬がきた。

ままに逢ひたい冬がきた。

 

竹久夢二

春のおくりもの」所収

1928

 

花火

花火のやうにのぼりつめ

花火のやうにきえました。

花火のやうにうつつなう

はかなく消える恋でした。

 

竹久夢二

恋愛秘語」所収

1924

 

 

或る話

(辞書を引く男が疲れてゐる)

 

「サ」の字が沢山列らんでゐた

サ・サ・サ・サ・サ・・・・・・と

 

そこへ

黄色の服を着た男が

路を尋ねに来たのです

 

でも

どの「サ」も知つてゐません

黄色の服はいつまでも立つてゐました

 

ああ──

どうしたことか

黄色い服には一つもボタンがついてゐないのです

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

今日は針の気げんがわるい

今日は針の気げんがわるい

 

三度も指をつついてしまつたし

なかなか 糸もとほらなかつた

プッツ プッツ プッツ プッツ ──

針は布をくぐつては気げんのわるい顔を出しました

 

「お婆さん お茶にしませう」と針が

だが

お婆さんは耳が遠いので聞えません

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

猫の眼月

嵐がやんで

大きくくぼんだ空に

低く 猫の眼のような月が出てゐる

私の静物をぬすんでいつたのはお前にちがひない──

嵐のあとを

お前がいくら猫の眼に化けても

お前に眼鏡をとられるようなことのないやうにさつきから用心してゐる

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

 

病気

ヤサシイ娘ニイダカレテヰル トコロカラ私ノ病気ガ始マリマシタ

 

私ハ バイキンノカタマリニナツテ

娘ノ頬ノトコロニ飛ビツキマシタ

娘ハ私ヲ ホクロトマチガヘテ

丁度ヨイトコロニイル私ヲ中心ニシテ化粧ヲシマス

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

散歩

とつぴな

そして空想家な育ちの心は

女に挨拶をしてしまつた

たしかに二人は何処かで愛しあつたことがあつた筈だと言ふのですが

そのつれの男と言ふのが口髭などをはやして

子供だと思つて油断をしてゐたカフヱーのボーイにそつくりなのです

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

ある来訪者への接待

どてどてとてたてててたてた

たてとて

てれてれたとことこと

ららんぴぴぴぴ ぴ

とつてんととのぷ

んんんん ん

てつれんぽんととぽれ

 

みみみ

ららら

らからからから

ごんとろとろろ

 

ぺろぺんとたるるて

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925