或る話

(辞書を引く男が疲れてゐる)

 

「サ」の字が沢山列らんでゐた

サ・サ・サ・サ・サ・・・・・・と

 

そこへ

黄色の服を着た男が

路を尋ねに来たのです

 

でも

どの「サ」も知つてゐません

黄色の服はいつまでも立つてゐました

 

ああ──

どうしたことか

黄色い服には一つもボタンがついてゐないのです

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください