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赤い靴

赤い靴 はいてた

女の子

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

横浜の 埠頭から

船に乗って

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

いまでは 青い目に

なっちゃって

異人さんのお国に

いるんだろう

 

赤いくつ 見るたび

考える

異人さんに逢うたび

考える

 

野口雨情

1922

赤蜻蛉

夕やけ子やけの

赤とんぼ

負われて見たのは

いつの日か

 

山の畑の

桑の実を

子籠に摘んだは

まぼろしか

 

十五で姐やは

嫁に行き

お里のたよりも

絶えはてた

 

夕やけ子やけの

赤とんぼ

とまっているよ

竿の先

 

三木露風

真珠島」所収

1921

黄金虫

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

飴屋で水飴 買って来た

 

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

子供に水飴 なめさせた

 

野口雨情

1922

 

ゴンドラの唄

いのち短し恋せよ乙女

朱き唇褪せぬ間に

熱き血潮の冷えぬ間に

明日の月日のないものを

 

いのち短し恋せよ乙女

いざ手を取りてかの舟に

いざ燃ゆる頬を君が頬に

ここには誰も来ぬものを

 

いのち短し恋せよ乙女

黒髪の色褪せぬ間に

心の炎消えぬ間に

今日は再び来ぬものを

 

吉井勇

1915

どこかで春が

どこかで「春」が

生まれてる

どこかで水が

ながれ出す

 

どこかで雲雀が

啼いている

どこかで芽の出る

音がする

 

山の三月

東風吹いて

どこかで「春」が生まれてる

 

百田宗治

1955

罪なれば物のあわれを

こゝろなき身にも知るなり

罪なれば酒をふくみて

夢に酔い夢に泣くなり

 

罪なれば親をも捨てゝ

世の鞭を忍び負うなり

罪なれば宿を逐われて

花園に別れ行くなり

 

罪なれば刃に伏して

紅き血に流れ去るなり

罪なれば手に手をとりて

死の門にかけり入るなり

 

罪なれば滅び砕けて

常闇の地獄のなやみ

嗚呼二人抱きこがれつ

恋の火にもゆるたましい

 

島崎藤村

落梅集」所収

1901

蹄鉄屋の歌

泣くな、

驚ろくな、

わが馬よ。

私は蹄鉄屋。

私はお前の蹄から

生々しい煙をたてる、

私の仕事は残酷だろうか。

若い馬よ、

少年よ、

私はお前の爪に

真赤にやけた鉄の靴をはかせよう。

そしてわたしは働き歌をうたいながら、

──辛抱しておくれ、

  すぐその鉄は冷えて

  お前の足のものになるだろう、

  お前の爪の鎧になるだろう、

  お前はもうどんな茨の上でも

  石ころ路でも

  どんどんと駆け廻れるだろうと──、

私はお前を慰めながら

トッテンカンと蹄鉄うち。

ああ、わが馬よ、

友達よ、

私の歌をよっく耳傾けてきいてくれ。

私の歌はぞんざいだろう、

私の歌は甘くないだろう、

お前の苦痛に答えるために、

私の歌は

苦しみの歌だ。

焼けた蹄鉄を

お前の生きた爪に

当てがった瞬間の煙のようにも、

私の歌は

灰色に立ち上がる歌だ。

強くなってくれよ、

私の友よ、

青年よ、

私の赤い焔を

君の四つ足は受け取れ、

そして君は、けわしい岩山を

その強い足をもって砕いてのぼれ、

トッテンカンの蹄鉄うち、

うたれるもの、うつもの、

お前と私とは兄弟だ、

共に同じ現実の苦しみにある。

 

小熊秀雄

小熊秀雄詩集」所収

1935