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春よ来い

春よ来い 早く来い

あるきはじめた みいちゃんが

赤い鼻緒の じょじょはいて

おんもへ出たいと 待っている

 

春よ来い 早く来い

おうちのまえの 桃の木の

蕾もみんな ふくらんで

はよ咲きたいと 待っている

 

相馬御風

1923

 

春が来た

春がきた 春がきた

どこにきた

山にきた 里にきた

野にもきた

 

花がさく 花がさく

どこにさく

山にさく 里にさく

野にもさく

 

鳥がなく 鳥がなく

どこでなく

山でなく 里でなく

野でもなく

 

高野辰之

1910

琵琶湖周航の歌

われは湖の子 さすらいの

旅にしあれば しみじみと

昇る狭霧や さざなみの

志賀の都よ いざさらば

 

松は緑に 砂白き

雄松が里の 乙女子は

赤い椿の 森陰に

はかない恋に 泣くとかや

 

波のまにまに 漂えば

赤い泊火懐かしみ

行方定めぬ 波枕

今日は今津か 長浜か

 

瑠璃の花園 珊瑚の宮

古い伝えの 竹生島

仏の御手に 抱かれて

眠れ乙女子 やすらけく

 

矢の根は深く 埋もれて

夏草しげき 堀のあと

古城にひとり 佇めば

比良も伊吹も 夢のごと

 

西国十番 長命寺

汚れの現世 遠く去りて

黄金の波に いざ漕がん

語れ我が友 熱き心

 

小口太郎

1917

証城寺の狸囃子

証 証 証城寺

証城寺の庭は

ツ ツ 月夜だ

皆出て来い来い来い

己等の友達ア

ぽんぽこぽんのぽん

 

負けるな 負けるな

和尚さんに負けるな

来い 来い 来い 来い来い来い

皆出て 来い来い来い

 

証 証 証城寺

証城寺の萩は

ツ ツ 月夜に花盛り

己等は浮かれて

ぽんぽこぽんのぽん

 

野口雨情

1925

赤い靴

赤い靴 はいてた

女の子

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

横浜の 埠頭から

船に乗って

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

いまでは 青い目に

なっちゃって

異人さんのお国に

いるんだろう

 

赤いくつ 見るたび

考える

異人さんに逢うたび

考える

 

野口雨情

1922

赤蜻蛉

夕やけ子やけの

赤とんぼ

負われて見たのは

いつの日か

 

山の畑の

桑の実を

子籠に摘んだは

まぼろしか

 

十五で姐やは

嫁に行き

お里のたよりも

絶えはてた

 

夕やけ子やけの

赤とんぼ

とまっているよ

竿の先

 

三木露風

真珠島」所収

1921

黄金虫

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

飴屋で水飴 買って来た

 

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

子供に水飴 なめさせた

 

野口雨情

1922

 

ゴンドラの唄

いのち短し恋せよ乙女

朱き唇褪せぬ間に

熱き血潮の冷えぬ間に

明日の月日のないものを

 

いのち短し恋せよ乙女

いざ手を取りてかの舟に

いざ燃ゆる頬を君が頬に

ここには誰も来ぬものを

 

いのち短し恋せよ乙女

黒髪の色褪せぬ間に

心の炎消えぬ間に

今日は再び来ぬものを

 

吉井勇

1915

どこかで春が

どこかで「春」が

生まれてる

どこかで水が

ながれ出す

 

どこかで雲雀が

啼いている

どこかで芽の出る

音がする

 

山の三月

東風吹いて

どこかで「春」が生まれてる

 

百田宗治

1955

強敵

一つの花に蝶と蜘蛛

子蜘蛛は花を守り顔

子蝶は花に酔い顔に

舞えども舞えどもすべぞなき

 

花は子蜘蛛のためならば

子蝶の舞をいかにせん

花は子蝶のためならば

子蜘蛛の糸をいかにせん

 

やがて一つの花散りて

子蜘蛛はそこに眠れども

羽翼も軽き子蝶こそ

いずこともなくうせにけれ

 

島崎藤村

若菜集」所収

1897