私たちは海辺に住まう(抄)

 かつて、熱心に風の名を集めた人があった。その人によると、『万葉集』の末二巻のなかでは「アユノカゼ」に「東風」の二字を当てているという。そして、風が陸地に打ち上げるものを、人々は寄物と呼んだ。

 海からのくさぐさの好ましいものを、日本人に送ってよこした風の名が「アユ」であった。

 東風がどのような宝物を吹き寄せたのか、浜辺に立つ私たちには、もはや知るよしもない。

 けれども、私もまた、集めようと思う。風の名を。

 

城戸朱理

漂流物」所収

2012

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