負債の証券化について

(日本経済新聞連載「経済教室」より③)

 

80年代に入って急速に普及した負債の証券化

所謂「セキュリタイゼイション」は

それまで閉ざされていた債権者⇔債務者の関係を

本来の負債とは無縁の投資家へと解放することにより

全く新しい巨大金融市場を創出した

斯くしてアルゼンチンの首都に群がる失業者たちの未来は

先進諸国の銀行団(syndicate)の手を離れ

シアトル郊外で美しい朝露を光らせる芝生の行方は

日本の個人投資家たちの見定めるところとなった

だが如何に幅広く分散しようと

本来の負債に内在するリスクが消失する訳ではない

国家財政に巨額の損失を与えたS&L危機の問題を持ち出すまでもなく

投資に際してはこの点に充分留意する必要があろう

たとえば路上にたたずむ娼婦の胸に故知らず湧き上がる厭な予感

その感覚は証券化により流通可能に標準化され

全世界の都市から農村へと忽ちにして伝播される

その波から逃れることは水牛の背に止まる小鳥にも不可能なので

オプションあるいはスワップ等のヘッジング取引を介して

速やかに青空へ飛び去ることが望ましい

 

四元康祐

笑うバグ」所収

1991

One comment on “負債の証券化について

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください