波かぞえ

砂浜に坐って波を数えた

まぶしい光の子供たちがたくさん

海の上で手をつないで踊っている

真夏だった

 

シャラシャラシャラと寄せて返す波を

いくつもいくつも数えた

 

夜になっても数えつづけた

月が出て 星がたくさん出てきて

やがて日が昇った

 

二十万まで数えた時、月が欠けた

四十万まで数えた時、月が満ちた

 

三億を超えたところで眠くなった

目が覚めたら、何千年かが過ぎて

ぼくは石になっていた

そこは今は海の中で

波の音は聞こえない

光の子供はずっと上の方で踊っている

 

ぼくは今度は何も数えず

また眠った

 

池澤夏樹

この世界のぜんぶ」所収

2001

One comment on “波かぞえ

  1. 「波かぞえ」は池澤夏樹さんの承諾を得た上で掲載しております。無断転載は禁止です。
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