コップは割れて鳥子の喉に流れ込むはずだったアプリコットジュースが床にこぼれてしまう《モウ一度ヤリ直サクチャ》振り向きざま鳥子に手渡そうとしたコップは割れて鳥子の喉に流れ込むはずだったアプリコットジュースが床にこぼれてしまう《モウ一度ヤリ直サクチャ》なみなみと注いだアプリコットジュースの冷たさが硝子越しに指を凍えさせるから振り向きざま鳥子に手渡そうとしたコップは割れて鳥子の喉に流れ込むはずだったアプリコットジュースが床にこぼれてしまう《モウ一度ヤリ直サクチャ》美しく透んだ氷を選んでいくつも入れなみなみと注いだアプリコットジュースの冷たさが硝子越しに指を凍えさせるから振り向きざま鳥子に手渡そうとしたコップは割れて鳥子の喉に流れ込むはずだったアプリコットジュースが床にこぼれてしまう《モウ一度ヤリ直サクチャ》開け放したままの冷蔵庫から漏れる淡いオレンジ色の光を浴びながら美しく透んだ氷を選んでいくつも入れなみなみと注いだアプリコットジュースの冷たさが硝子越しに指を凍えさせるから振り向きざま鳥子に手渡そうとしたコップは割れて鳥子の喉に流れ込むはずだったアプリコットジュースが床にこぼれてしまう《モウ一度・・・・・
修復 できない
幾度繰り返しても(いいえ たったいちどだけ)コップが割れて
飛び散る無数の硝子片がマーブルの床に突き刺さる
「リピート・プレイをぬけだすには」
遠くから鳥子の声が聞こえる
そう リピート・プレイをぬけだすには わたしはそれが知りたいの
教えて 鳥子
「リピート・プレイをぬけだすには」
アプリコットジュースの洪水に押し流されてゆく鳥子の声がゆらゆら揺れる
「リピート・プレイをぬけだすには すばやく時間を飛び移ること
ターンテーブルはまわり続けているのだから
擦過音を解く針のようにすばやく
絶望が長く引き伸ばされるような落下に耐えて
死んだばかりの魚時間
非ユークリッド幾何学における球面三角形の声時間
それから アフリカ時間」
《飛ビ移ル》!
アプリコットジュースがわたしの血を滲ませて マーブルの床をゆっくりと流れてゆく 鳥子に手渡そうとしたコップは割れ 飛び散った硝子の破片がわたしの指を傷つけていた 氷のかけらをいくつも入れてからなみなみと注いだアプリコットジュースが 急速に冷えてわたしの指をしびれさせたのだ アプリコットジュースを注ぎ入れたとき 氷たちは触れ合って ピシ、ピシ、と音がしたから わたしはわざとゆっくり長々とジュースの瓶を傾けた 開け放したままの冷蔵庫から淡いオレンジ色の光が漏れてコップの中のアプリコットジュースの中の氷のひとつひとつに影ができるのをぼんやり数えた 冷蔵庫を開けてその瓶を見つけた瞬間 アプリコットジュースに決めたのだった かすかな電気音をたてている冷蔵庫の中にアプリコットジュースが冷やされていることなどすっかり忘れていたのに 床に転がっていた硝子のコップを拾い上げたときは ただ喉が乾いたということばかり思いつめていたのだ
喉が乾いた、と。落雷のように激しく、喉が、乾いた、と・・・・・
喉が 乾いたのは 《誰》
アプリコットジュースが広がる床に浮島のように光る硝子片を飛び渡って
鳥子が 駆け寄ってくる
素足から流れ出した鳥子の血が アプリコットジュースに混じって
わたしと鳥子のマーブル模様を描いている
川口晴美
「デルタ」所収
1991
「無力の夏」は川口晴美さんの許可をいただいた上で掲載しております。
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インタビュー「私が詩人になったわけ」2000年連詩の会インタビューより
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