むろん理由はあるにはあつたがそれはとにかくとして
人々が僕を嫌ひ出したやうなので僕は温しく嫌はれてやるのである
嫌はれてやりながらもいくぶんははづかしいので
つい、僕は生きようかと思ひたつたのである
暖房屋になつたのである
万力台がある鐡管がある
吹鼓もあるチェントンもあるネヂ切り機械もある
重量ばかりの重なり合つた仕事場である
いよいよ僕は生きるのであらうか!
鐡管をかつぐと僕の中にはぷちぷち鳴る背骨がある
力を絞ると涙が出るのである
ヴィバーで鐡管にネヂを切るからであらうか
僕の心理のなかには慣性の法則がひそんでゐるかのやうに
なにもかもにネヂを切つてやりたくなるのである
目につく物はなんでも一度はかついでみたくなるのである
ついに僕は僕の軆重までもかついでしまつたのであらうか
夜を摑んで引つ張り寄せたいのである
そのねむりのなかへ軆重を放り出したいのである。
山之口貘
「思辨の苑」所収
1938