待ちぼうけ 待ちぼうけ
ある日 せっせと 野良かせぎ
そこへ兎が飛んで出て
ころり ころげた 木のねっこ
待ちぼうけ 待ちぼうけ
しめた これから寝て待とか
待てば獲ものは駆けて来る
兎ぶつかれ 木のねっこ
待ちぼうけ 待ちぼうけ
昨日鍬取り 畑仕事
今日は頬づえ 日向ぼこ
うまい伐り株 木のねっこ
待ちぼうけ 待ちぼうけ
今日は今日はで 待ちぼうけ
明日は明日はで 森のそと
兎待ち待ち 木のねっこ
待ちぼうけ 待ちぼうけ
もとは涼しい黍畑
いまは荒野の箒草
寒い北風 木のねっこ
北原白秋
1924
栄人有耕田者
田中有株
兎走触株
折頚而死
因釈其来而守株
冀復得兎
兎不可復得
而身為栄国笑
「韓非子」 五蟲 第四十九
烏 なぜ啼くの
烏は山に
可愛七つの
子があるからよ
可愛 可愛と
烏は啼くの
可愛可愛と啼くんだよ
山の古巣に
いって見て御覧
丸い目をした
いい子だよ
野口雨情
1921
どんぐりころころ ドンブリコ
お池にはまって さあ大変
どじょうが出て来て 今日は
坊ちゃん一緒に 遊びましょう
どんぐりころころ よろこんで
しばらく一緒に遊んだが
やっぱりお山が 恋しいと
泣いてはどじょうを 困らせた
青木存義
1921
しゃぼん玉 とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた
しゃぼん玉 消えた
飛ばずに消えた
うまれてすぐに
こわれて消えた
風 風 吹くな
しゃぼん玉 とばそ
野口雨情
1922
この道はいつか来た道
ああ そうだよ
あかしやの花が咲いてる
あの丘はいつか見た丘
ああ そうだよ
ほら 白い時計台だよ
この道はいつか来た道
ああ そうだよ
お母さまと馬車で行ったよ
あの雲もいつか見た雲
ああ そうだよ
山査子の枝も垂れてる
北原白秋
1942
うの花のにおう垣根に
時鳥 早もきなきて
忍音もらす 夏は来ぬ
さみだれのそそぐ山田に
早乙女が 裳裾ぬらして
玉苗ううる 夏は来ぬ
橘のかおるのきばの
窓近く 蛍とびかい
おこたり諫むる 夏は来ぬ
棟ちる川べの宿の
門遠く 水鶏声して
夕月すずしき 夏は来ぬ
さつきやみ 蛍とびかい
水鶏鳴き 卯の花さきて
早苗うえわたす 夏は来ぬ
佐々木信綱
1896
春よ来い 早く来い
あるきはじめた みいちゃんが
赤い鼻緒の じょじょはいて
おんもへ出たいと 待っている
春よ来い 早く来い
おうちのまえの 桃の木の
蕾もみんな ふくらんで
はよ咲きたいと 待っている
相馬御風
1923
春がきた 春がきた
どこにきた
山にきた 里にきた
野にもきた
花がさく 花がさく
どこにさく
山にさく 里にさく
野にもさく
鳥がなく 鳥がなく
どこでなく
山でなく 里でなく
野でもなく
高野辰之
1910
われは湖の子 さすらいの
旅にしあれば しみじみと
昇る狭霧や さざなみの
志賀の都よ いざさらば
松は緑に 砂白き
雄松が里の 乙女子は
赤い椿の 森陰に
はかない恋に 泣くとかや
波のまにまに 漂えば
赤い泊火懐かしみ
行方定めぬ 波枕
今日は今津か 長浜か
瑠璃の花園 珊瑚の宮
古い伝えの 竹生島
仏の御手に 抱かれて
眠れ乙女子 やすらけく
矢の根は深く 埋もれて
夏草しげき 堀のあと
古城にひとり 佇めば
比良も伊吹も 夢のごと
西国十番 長命寺
汚れの現世 遠く去りて
黄金の波に いざ漕がん
語れ我が友 熱き心
小口太郎
1917
証 証 証城寺
証城寺の庭は
ツ ツ 月夜だ
皆出て来い来い来い
己等の友達ア
ぽんぽこぽんのぽん
負けるな 負けるな
和尚さんに負けるな
来い 来い 来い 来い来い来い
皆出て 来い来い来い
証 証 証城寺
証城寺の萩は
ツ ツ 月夜に花盛り
己等は浮かれて
ぽんぽこぽんのぽん
野口雨情
1925