どてどてとてたてててたてた
たてとて
てれてれたとことこと
ららんぴぴぴぴ ぴ
とつてんととのぷ
ん
んんんん ん
てつれんぽんととぽれ
みみみ
ららら
らからからから
ごんとろとろろ
ぺろぺんとたるるて
尾形亀之助
「色ガラスの街」所収
1925
むろん理由はあるにはあつたがそれはとにかくとして
人々が僕を嫌ひ出したやうなので僕は温しく嫌はれてやるのである
嫌はれてやりながらもいくぶんははづかしいので
つい、僕は生きようかと思ひたつたのである
暖房屋になつたのである
万力台がある鐡管がある
吹鼓もあるチェントンもあるネヂ切り機械もある
重量ばかりの重なり合つた仕事場である
いよいよ僕は生きるのであらうか!
鐡管をかつぐと僕の中にはぷちぷち鳴る背骨がある
力を絞ると涙が出るのである
ヴィバーで鐡管にネヂを切るからであらうか
僕の心理のなかには慣性の法則がひそんでゐるかのやうに
なにもかもにネヂを切つてやりたくなるのである
目につく物はなんでも一度はかついでみたくなるのである
ついに僕は僕の軆重までもかついでしまつたのであらうか
夜を摑んで引つ張り寄せたいのである
そのねむりのなかへ軆重を放り出したいのである。
山之口貘
「思辨の苑」所収
1938
何も言うことはありません
よく生きなさい
つよく
つよく
そして働くことです
石工が石を割るように
左官が壁をぬるように
それでいい
手や足をうごかしなさい
しっかりと働きなさい
それが人間の美しさです
仕事はあなたにあなたの欲する一切のものを与えましょう
山村暮鳥
「風は草木にささやいた」所収
1918
しゃぼん玉 とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた
しゃぼん玉 消えた
飛ばずに消えた
うまれてすぐに
こわれて消えた
風 風 吹くな
しゃぼん玉 とばそ
野口雨情
1922
この道はいつか来た道
ああ そうだよ
あかしやの花が咲いてる
あの丘はいつか見た丘
ああ そうだよ
ほら 白い時計台だよ
この道はいつか来た道
ああ そうだよ
お母さまと馬車で行ったよ
あの雲もいつか見た雲
ああ そうだよ
山査子の枝も垂れてる
北原白秋
1942
うの花のにおう垣根に
時鳥 早もきなきて
忍音もらす 夏は来ぬ
さみだれのそそぐ山田に
早乙女が 裳裾ぬらして
玉苗ううる 夏は来ぬ
橘のかおるのきばの
窓近く 蛍とびかい
おこたり諫むる 夏は来ぬ
棟ちる川べの宿の
門遠く 水鶏声して
夕月すずしき 夏は来ぬ
さつきやみ 蛍とびかい
水鶏鳴き 卯の花さきて
早苗うえわたす 夏は来ぬ
佐々木信綱
1896
春よ来い 早く来い
あるきはじめた みいちゃんが
赤い鼻緒の じょじょはいて
おんもへ出たいと 待っている
春よ来い 早く来い
おうちのまえの 桃の木の
蕾もみんな ふくらんで
はよ咲きたいと 待っている
相馬御風
1923
春がきた 春がきた
どこにきた
山にきた 里にきた
野にもきた
花がさく 花がさく
どこにさく
山にさく 里にさく
野にもさく
鳥がなく 鳥がなく
どこでなく
山でなく 里でなく
野でもなく
高野辰之
1910
われは湖の子 さすらいの
旅にしあれば しみじみと
昇る狭霧や さざなみの
志賀の都よ いざさらば
松は緑に 砂白き
雄松が里の 乙女子は
赤い椿の 森陰に
はかない恋に 泣くとかや
波のまにまに 漂えば
赤い泊火懐かしみ
行方定めぬ 波枕
今日は今津か 長浜か
瑠璃の花園 珊瑚の宮
古い伝えの 竹生島
仏の御手に 抱かれて
眠れ乙女子 やすらけく
矢の根は深く 埋もれて
夏草しげき 堀のあと
古城にひとり 佇めば
比良も伊吹も 夢のごと
西国十番 長命寺
汚れの現世 遠く去りて
黄金の波に いざ漕がん
語れ我が友 熱き心
小口太郎
1917
証 証 証城寺
証城寺の庭は
ツ ツ 月夜だ
皆出て来い来い来い
己等の友達ア
ぽんぽこぽんのぽん
負けるな 負けるな
和尚さんに負けるな
来い 来い 来い 来い来い来い
皆出て 来い来い来い
証 証 証城寺
証城寺の萩は
ツ ツ 月夜に花盛り
己等は浮かれて
ぽんぽこぽんのぽん
野口雨情
1925