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人間に与える詩

そこに太い根がある

これをわすれているからいけないのだ

腕のような枝をひっ裂き

葉っぱをふきちらし

頑丈な樹幹をへし曲げるような大風の時ですら

まっ暗な地べたの下で

ぐっと踏張っている根があると思えば何でもないのだ

それでいいのだ

そこに此の壮麗がある

樹木をみろ

大木をみろ

このどっしりとしたところはどうだ

 

山村暮鳥

風は草木にささやいた」所収

1918

○●

○○を露出した恋人の顔——月経の日に

「便所」の中は百鬼夜中だ

   強 された時のやうに

●●憂欝な薔薇の

        ヂーンと開き放しになつてしまつた日だ!

俺ハ春ノ日ヲ墓場カラ出テ来タ
  ピストルと金貨のオモチヤ\ 太  銭!

金貨 金貨 金貨 金貨 金貨=|  ==ダ!

  軌道を外れさうなアブナイ/ 陽  ツ!
銭だ! みいんな銭だ!

  一杯ガマ口につめこんである銭ぢやないか!

太陽の光りだつて銭で買へる時代だ!

   ゼニヲ モツテヰナイモノハ

   ニンゲンデ ナインダ
  女も正義も――銭だ!

  〳〵〳〵〳〵赤い赤い赤い

        マツ赤ナ銭ナンダ!
——太陽形の銭が膏薬の代りにハリついてゐる局部から——

  腐敗した血が流れてゐる

  金よ 本よ 酒よ 歌よ 女よ

——世の中は重い荷物だ しよつて起てない荷物だ

  厄介な邪魔な荷物だネ

 

萩原恭次郎

死刑宣告」所収

1925

ラスコーリニコフ

殺到した群衆!
  闇の底に泥靴は鳴つた!
●●二階へ!
――――道路は争議団の
    職工の手と旗が渦まいてゐる!
扉の    ―――ピストルの発射があつた!
内部では
ドヲツ!
CCCCCCCCCC―――群集の叫號!
ボギー列車は巨大な胴体をもつて中央停車場へ走つた!
   ● 
   ● 
        不安なレール―――┐
                    └―――音響!
【窓】―窓●窓●窓●窓
     窓 ●
   ●窓
  ●窓
鉛貨よりも青つ白い空気●●流動する空気
戦慄する動脉
突走する血液

●斧
VAG WNG

●●●●●●●●●●●Eiiiiii----EEii
Eiiiiii~~~~~~~~CEiiiii
Eii●●●●
╲    ╱ド・ド・ド・ド・ド・●●
 ╲  ╱ 首
  ╲╱        RRRRRRRR
開いた手!VVVVVVV

足!●●露出された蒼黒い<
――壁へ!   血液┐
――戸棚へ!   ┌たつ上ね跳へ上天┘
    └靴

EiiiiiiiiiiiVAG.WNG●●●AA!ア!ワ!

●●●断崖
      楷子段
   濁音の急速なる破滅!
   血をふくんで蒼ざめた恐怖!
~~~~~~刑事課の自動車は走つた!
   ァ!
   
    ア!
    ウ  ワ  ハ!

剣付鉄砲の兵士
駆け出した警官
●●ベルの音響
れる群集——自動車、自動車、自動車
十字街の時計は
~~~~~~~~~~赤い指針で一時二十七分!

BWO BVVDC
群集●群集●群集●群集……群集●●●●●●

 

萩原恭次郎

死刑宣告」所収

1925

 

最後のキス

人よ未練があるうちに

最後のキスをしてしまえ

最後のキスに咲く花は

赤い焔のばらの花

 

ばらの焔をかき分けて

三十二枚の歯が笑う

人よ未練があるうちに

最後のキスをしてしまえ

 

 

最後のキスの夕まぐれ

孔雀は空を飛びまわり

恋の入日の隈どりに

金糸銀糸を投げかける

 

希くは恋人よ

高嶺の空に現れて

ものすごいほどつづけよう

恋の最後の偉大なキスを

 

 

最後のキスが済んだなら

君はあちらへ行きたまえ

私はこちらの坂道を

小鳥のように飛び下りよう

 

遠い浮世に鐘は鳴り

長い袂に月は照る

小径よつづけどこまでも

少女ごころが泣いていく

 

 

か弱いまでに ほのぼのと

宇宙は私を明るくし

二足 三足 夢のなか

肩に さくらの花が散る

 

熱い涙を胸に呑み

短い命投げ飛ばし

酔えば情思は甘いかな

耽美の星がちらちらと

 

高群逸枝

「放浪者の死」所収

1921

 

 

 

待ちぼうけ

待ちぼうけ 待ちぼうけ

ある日 せっせと 野良かせぎ

そこへ兎が飛んで出て

ころり ころげた 木のねっこ

 

待ちぼうけ 待ちぼうけ

しめた これから寝て待とか

待てば獲ものは駆けて来る

兎ぶつかれ 木のねっこ

 

待ちぼうけ 待ちぼうけ

昨日鍬取り 畑仕事

今日は頬づえ 日向ぼこ

うまい伐り株 木のねっこ

 

待ちぼうけ 待ちぼうけ

今日は今日はで 待ちぼうけ

明日は明日はで 森のそと

兎待ち待ち 木のねっこ

 

待ちぼうけ 待ちぼうけ

もとは涼しい黍畑

いまは荒野の箒草

寒い北風 木のねっこ

 

北原白秋

1924

 

栄人有耕田者

田中有株

兎走触株

折頚而死

因釈其来而守株

冀復得兎

兎不可復得

而身為栄国笑

 

「韓非子」 五蟲 第四十九

 

七つの子

烏 なぜ啼くの

烏は山に

可愛七つの

子があるからよ

 

可愛 可愛と

烏は啼くの

可愛可愛と啼くんだよ

 

山の古巣に

いって見て御覧

丸い目をした

いい子だよ

 

野口雨情

1921

どんぐりころころ

どんぐりころころ ドンブリコ

お池にはまって さあ大変

どじょうが出て来て 今日は

坊ちゃん一緒に 遊びましょう

 

どんぐりころころ よろこんで

しばらく一緒に遊んだが

やっぱりお山が 恋しいと

泣いてはどじょうを 困らせた

 

青木存義

1921

花火

花火のやうにのぼりつめ

花火のやうにきえました。

花火のやうにうつつなう

はかなく消える恋でした。

 

竹久夢二

恋愛秘語」所収

1924

 

 

病気

ヤサシイ娘ニイダカレテヰル トコロカラ私ノ病気ガ始マリマシタ

 

私ハ バイキンノカタマリニナツテ

娘ノ頬ノトコロニ飛ビツキマシタ

娘ハ私ヲ ホクロトマチガヘテ

丁度ヨイトコロニイル私ヲ中心ニシテ化粧ヲシマス

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925

散歩

とつぴな

そして空想家な育ちの心は

女に挨拶をしてしまつた

たしかに二人は何処かで愛しあつたことがあつた筈だと言ふのですが

そのつれの男と言ふのが口髭などをはやして

子供だと思つて油断をしてゐたカフヱーのボーイにそつくりなのです

 

尾形亀之助

色ガラスの街」所収

1925