鯨油工場 ―鯨魚死而慧星出、准南子―

釜底に沸沸ゆれる鯨の大脳よ。

けだるく油脂の臭ひはのぼり。

しだいに造花は鎔けてゆく。

 

曾つてあれら軟柔な皺襞のなかに

青い心象が燃えてゐたのだ。

古い記憶が生きてゐたのだ。

脳・・・・・・

茫乎としてああ涯しもない、

私は遠い過去世を思ふ。

混沌のなかに私は消える。

 

Heave ho! Heave ho!

斑に夕日をうけて人と機械は、

感覚のむかうにちらちら動く。

 

石川善助

亜寒帯」所収

1936

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