この黄昏の野原のなかを
耳のながい象たちがぞろりぞろりと歩いてゐる。
黄色い夕月が風にゆらいで
あちこちに帽子のやうな草つぱがひらひらする。
さびしいですか お孃さん!
ここに小さな笛があつて その音色は澄んだ緑です。
やさしく歌口をお吹きなさい
とうめいなる空にふるへて
あなたの蜃氣樓をよびよせなさい。
思慕のはるかな海の方から
ひとつの幻像がしだいにちかづいてくるやうだ。
それはくびのない猫のやうで 墓場の草影にふらふらする。
いつそこんな悲しい暮景の中で 私は死んでしまひたいのです! お孃さん!
萩原朔太郎
「定本青猫」所収
1934
鼻をかむのに紛れて、泣くのです。
人混みに紛れて、笑うのです。
口も耳も手足がなくとも、
この目さえあれば、見えるのです、あなたが。
喩え、遠くの遠くの遥か遠くにいるとしても。
届くんだもん、あなたに。
BGM:海の声 by浦島太郎さん