月光の
語るらく
わが見しは一の姫
古あをき笛吹いて
夜も深く塔の
階級に白々と
立ちにけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
香木の髄香る
槽桁や白乳に
浴みして降りかゝる
花姿天人の
喜悦に地どよみ
虹たちぬ
月光の
語るらく
わが見しは一の姫
一葉舟湖にうけて
霧の下まよひては
髪かたちなやましく
乱れけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
顔映る円柱
驕り鳥尾を触れて
風起り波怒る
霞立つ空殿を
七尺の裾曳いて
黄金の跡印けぬ
月光の
語るらく
わが見しは一の姫
死の島の岩陰に
青白くころび伏し
花もなくむくろのみ
冷えにけり
日光の
語るらく
わが見しは二の姫
城近く草ふみて
妻覓ぐと来し王子は
太刀取の耻見じと
火を散らす駿足に
かきのせて直走に
国領を去りし時
春風は微吹きぬ
伊良子清白
「孔雀舟」所収
1905