漂遊吟

退屈なので

累々たる人間の谷底を

けさの三時半から出てしまった

 

どうして私が

未来のことを考えよう

きれいな風が吹いてくるではないか

 

風よ日よ

どうか私と遊んでおくれ

この古風で独りぼっちな私と

 

こんなに私が

古風で独りぼっちな女なので

人は私を末摘花だといっていよう

 

だが雲は

火の花瓣をあげて進んでくるし

地平線は銀に輝く

 

人びとよ

人生が私に何だろう

いや何でもない

 

人生よ

光と音響とのデカダンスよ

私はいつもお前を打ち眺める

 

自由ということを

そしてもはや忘れてしまった

足はいま石竹いろの空気を踏む

 

岩壁も 王者の塔も

ここまでは透さない

かれらは空気の底に沈んでいる

 

お母さま

私に会いたいとおっしゃるなら

あの三日月の輪をご覧下さい

 

あの輪の上に

私は毎晩佇んで

東の空から昇るのです

 

真夜なかには

驚くばかり歴々と

あなたの町に迫ります

 

そして人びとの

愚かで下らない信条を

私の神話で鍍金して上げよう

 

こんなに私は

偉大な女詩人であるけれど

こんなに私は寂しい

 

高群逸枝

「放浪者の死」所収

1921

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