大怪魚

かじきまぐろに似た

見あげるばかりの

大きな魚の化物が

海からあげられた。

おきざりにされて

砂浜には人かげもない。

ひきさかれた腹から

こやつは腹一ぱい呑みこんだ小魚を

臓腑もろとも

ずるずると吐きだして死んでいる。

その不気味さつたら。

おどろいたことに

その小魚どもがまたどいつもこいつも小魚を呑みこんでいるのだ。

海は鈍く鉛色に光つて

太古の相を呈している。

波しずかなる海にもえらい化物がいるものだ。

ひきあげてみたものの

しまつにおえぬ。

生乾しのまゝ

荒漠たる中に幾星霜。

いまだに

死臭ふんぷんだ。

 

小野十三郎

火呑む欅」所収

1952

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