一億の号泣

綸言一たび出でて一億号泣す

昭和二十年八月十五日正午

われ岩手花巻町の鎮守

島谷崎神社々務所の畳に両手をつきて

天上はるかに流れ来る

玉音の低きとゞろきに五体をうめる

五体わななきてとゞめあへず

玉音ひゞき終りて又音なし

この時無声の号泣国土に起り

普天の一億ひとしく宸極に向ってひれ伏せるを知る

微臣恐惶ほとんど失語す

ただ眼を凝らしてこの事実に直接し

荀も寸豪も曖昧模糊をゆるさゞらん

鋼鉄の武器を失へる時

精神の武器おのずから強からんとす

真と美と到らざるなき我等未来の文化こそ

必ずこの号泣を母胎として其の形相を孕まん

 

高村光太郎

1945

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