菱の實採るは誰が子ぞや

菱の實とるは誰が子ぞや

くろかみ風にみだれたる

 

菱の實とるは誰が子ぞや

ひとり浮びて古池に

 

鄙歌のふしおもしろく

君なほざりにうたふめり

 

聲夢ごこちほそきとき

ききまどふこそをかしけれ

 

かごはみてりや秋深く

實はさばかりにおほからじ

 

菱の葉のみは朽つれども

げに菱の實はおほからじ

 

かごはみたずや光なき

日は暮れてゆく短さよ

 

なほなげかじなうらわかみ

なさけにもゆる君ならば

 

君や菱賣る影清く

はしる市路のゆふまぐれ

 

そのすがたをば憐みて

ああなど誰かつらからむ

 

君がゑまひの花かげに

ふれなばおちむ實こそあれ

 

うるはしとおもふ實のひとつ

いつかこの身にこぼれけむ

 

旅ゆき迷ふわづらひも

しばしぞ今は忘らるる

 

あやしむなかれわれはただ

なさけのかげを慕ふのみ

 

さながらわれは若櫨の

枝に來て鳴く小鳥のみ

 

蒲原有明

草わかば」所収

1902

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