一生

一といふ盲人に、二といふ女盲人、悲しい生命いのちは其の間からうまれた

 

四番目の扉をひらいて

五番目の椅子へ座つた

 

六番目の燈明に火をともし

七番目の女の死骸を鞭つた

 

そして八番目の打下にがつかりと力がぬけて

神へ悲しい哀訴の手をあげた

 

身體は浮上るやうに淨くかろくなり

眞黒な錦襴の帷は九番目の祕密を垂らした

 

夢に照るらしい月夜はその中に薄青くけむつてゐる

星は覺束なげに天にひかつてゐる

 

十番目の吐息をすると

古めかしい記憶がしんとして行つた

 

十一番目の火をともすと

月光はおぼろげな火陰を搖らめかした

 

十二番目の大理石像の背後には

私にいきうつしの老人が俯向に倒れてゐる

 

眞白にしをれた薔薇は

うろ覺えの記憶をにほはしてゆく

 

十三番目の空中には

一つの棺が星雲のやうに浮いてゐる

 

悲しい一生の悔恨や悲嘆や追憶は

其處に匿れて齒がみしてゐる

 

捉へがたい鎖になげいて

私は十四番目の哀訴の手をあげた

 

福士幸次郎

太陽の子」所収

1912

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