其一
煙草のめのめ、空まで煙せ
どうせ、この世は癪のたね
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
煙草のめのめ、照る日も曇れ
どうせ、一度は涙雨
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
煙草のめのめ、忘れて暮らせ
どうせ、昔はかへりやせぬ
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
煙草のめのめ、あの世も煙れ
どうせ、亡くなりや野の煙
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
其二
煙草よくよく 横目で見たら
好きなお方も、また煙草。
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
煙草付けよか、紅つけませうか、
紅ぢやあるまい、脂であろ。
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
煙草ぶかぶかキッスしてゐたら、
鼻のパイプに、火をつけた。
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙
北原白秋
「白秋愛唱歌集」所収
1919