私は太陽を崇拝する…
その光線のためでなく、太陽が地上に描く樹木の影のために。
ああ、喜ばしき影よ、まるで仙女の散歩場のやうだ、
其処で私は夏の日の夢を築くであらう。
私は女を礼拝する…
恋愛のためでなく、恋愛の追憶のために。
恋愛は枯れるであらうが、追憶は永遠に青い、
私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう。
私は鳥の歌に謹聴する…
それは声のためでなく、声につづく沈黙のために。
ああ、声の胸から生まれる新鮮な沈黙よ、「死」の諧音よ、
私はいつも喜んでそれを聞くであらう。
野口米次郎
1947