殺人事件

とほい空でぴすとるが鳴る。

またぴすとるが鳴る。

ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、

こひびとの窓からしのびこむ、

床は晶玉、

ゆびとゆびとのあひだから、

まつさをの血がながれてゐる、

かなしい女の屍体のうへで、

つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。

 

しもつき上旬のある朝、

探偵は玻璃の衣裳をきて、

街の十字巷路を曲つた。

十字巷路に秋のふんすゐ、

はやひとり探偵はうれひをかんず。

 

みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、

曲者はいつさんにすべつてゆく。

 

萩原朔太郎

月に吠える」所収

1917

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