森のうへの坊さん

坊さんがきたな、

くさいろのちいさなかごをさげて。

鳥のやうにとんできた。

ほんとに、まるで鴉のやうな坊さんだ、

なんかの前じらせをもつてくるやうな、ぞつとする坊さんだ。

わらつてゐるよ。

あのうすいくちびるのさきが、

わたしの心臓へささるやうな気がする。

坊さんは飛んでいつた。

をんなはだかをならべたやうな

ばかにしろくみえる森のうへに、

ひとひらの紙のやうに坊さんはとんでいつた。

 

大手拓次

藍色の蟇」所収

1912

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