自分は太陽の子である
未だ燃えるだけ燃えたことのない太陽の子である
今いま口火をつけられてゐる
そろそろ燻ぶりかけてゐる
ああこの煙りが焔になる
自分はまつぴるまのあかるい幻想にせめられて止まないのだ
明るい白光の原つぱである
ひかり充ちた都會のまんなかである
嶺にはづかしさうに純白な雪が輝く山脈である
自分はこの幻想にせめられて
今燻りつつあるのだ
黒いむせぼつたい重い烟りを吐きつつあるのだ
ああひかりある世界よ
ひかりある空中よ
ああひかりある人間よ
總身眼のごとき人よ
總身象牙彫のごとき人よ
怜悧で健康で力あふるる人よ
自分は暗い水ぼつたいじめじめした所から産聲をあげたけれども
自分は太陽の子である
燃えることを憧れてやまない太陽の子である
福士幸次郎
「太陽の子」所収
1913