己が売つて了つた田の中で
水鶏が鳴いてゐる
己は悲しくなつて田の方を見ないで通つて来た
元己が家の畑の中に
青々と麦が育つてゐる
己は悲しくなつて畑の方を見ないで通つて来た
己が借金の為にとられた杉山が
真黒になつて茂つてゐる
己は悲しくなつて山の方を見ないで通つて来た
己は悲しくなつてもうこの村には居られない
己は何処へ行かう
何故己は死ねずに
この村に居るだらう
野口雨情
「都会と田園」所収 連作詩「己の家」より
1919
己が売つて了つた田の中で
水鶏が鳴いてゐる
己は悲しくなつて田の方を見ないで通つて来た
元己が家の畑の中に
青々と麦が育つてゐる
己は悲しくなつて畑の方を見ないで通つて来た
己が借金の為にとられた杉山が
真黒になつて茂つてゐる
己は悲しくなつて山の方を見ないで通つて来た
己は悲しくなつてもうこの村には居られない
己は何処へ行かう
何故己は死ねずに
この村に居るだらう
野口雨情
「都会と田園」所収 連作詩「己の家」より
1919