ねずみ

生死の生をほっぽり出して

ねずみが一匹浮彫りみたいに

往来のまんなかにもりあがっていた

まもなくねずみはひらたくなった

いろんな

車輪が

すべって来ては

あいろんみたいにねずみをのした

ねずみはだんだんひらくたくなった

ひらたくなるにしたがって

ねずみは

ねずみ一匹の

ねずみでもなければ一匹でもなくなって

その死の影すら消え果てた

ある日 往来に出てみると

ひらたい物が一枚

陽にたたかれて反っていた

 

山之口獏

鮪に鰯」所収

1964

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