月から観た地球は、円かな、
紫の光であった、
深いひほひの。
わたしは立つてゐた、海の渚に。
地球こそは夜空に
をさなかつた、生れたばかりで。
大きく、のぼつてゐた、地球は。
その肩に空気が燃えた。
雲が別れた。
潮鳴を、わたしは、草木と
火を噴く山の地動を聴いた。
人の呼吸を。
わたしは夢見てゐたのか、
紫のその光を、
わが東に。
いや、すでに知つてゐたのだ。地球人が
早くも神を求めてゐたのを、
また創つてゐたのを。
北原白秋
「海豹と雲」所収
1929