あじさい

また季節はめぐりきて うすむらさきのほほえみはよみがえる あなたは思い出 いつみても懐かしい いつまでもあなたのそばにいると あなたの色が沁みこんでくるようだ かけがえのない愛の色よ あなたの繁みの奥に こころのゆりかごを静かにゆり動かす手がある あなたの蔭に「時」のない影がある だがもう あなたの芯から名前は生まれではしても むかしのあなたではない あの日のいのちとともにうすれて いつか消えてしまった ただひとたびの美しさよ いまあなたにくまどられながら じっとあなたをみつめていると 眼が痛くなり 眼を閉じると 急にまわりが広くなる 遠いものは近くなり 近いものは遠くなる あなたの中に私が在るのか 私の中にあなたが在るのか わからなくなる そして 人というものが哀しくなってくる

金井直
「飢渇」所収
1956

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