買って一年も経たない腕時計が止まった。
蓋を開けてみると 胡麻粒ほどの豹が発芽していた。
動物を飼う気は毛頭ない。かと言って潰してしまうに忍びないので取り出してミルクなどやってみる。
すると たちまち猫くらいの大きさになってしまった。
あわてて動物園に電話すると
「あなたは猛獣を飼う必要がありますね。思い切って飼ってみることです。」
と言って切れた。
人ほどの大きさになった今では すっかりおとなしくなり
「やっぱり路地ものは粘りが違うね。」
などと言いながら里芋をつついている。
これでは猛獣を飼った甲斐が無い と ほっとしながらも少し不満だ。
近頃また時計の調子がおかしい。
伊与部恭子
「日はゆるやかに」所収
1997
「種」は伊与部さんの許諾を得た上で掲載しております。
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