子供の好きな少女に

たとへれば夏の作物を見るやうだ

子供の好きな少女は豊かで美しい

あどけなくてどこか生真面目で

さうして

活々とした目と優しい心を持つてゐる

ある夕べ稲光りがして

庭の薄が明るくそよいでゐた

室内も

ときに又昼間のやうに明るくなつた

子供が寝てゐたお臍を出して

その傍を離れず

十五ばかりの娘が一人

恐怖で目をみはつたまま座つてゐた

少女の手はまるで無意識に

(ああそしてそれはきつと

 この世の美しい行為の一つに違ひない)

小さな子供の手を確かり握つてゐた

 

津村信夫

或る遍歴から」所収

1944

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