忘れた秋

持つことを秋の道でおぼえたとき
風は一つ一つの草の実に吹き
野は一日一日の夕焼を蔵った
私はそうして秋を数えていた

昔は何を語り何を聞いたのか
昔は何を待ち何をのぞんだのか
川は知っているらしかった
そうして昔の川は私の傍を流れた

昔いくつかの物語は木の下で眠り
昔いくつかの恋は木の下で別れたと
嘘をつかない楡の木は云った

けれども忘れっぽい蝶は
木の向うに足音がすることや
木の中にかくれているひとを教えてくれた

岸田衿子
「忘れた秋」所収
1955

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